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「・・・え?」
連れてこられた場所は、病院だった。
しかも、ホスピス。
つまり、人生の最期を迎える患者の体や心の痛みを緩和ケアしてくれる病棟へと連れてこられたのだ。
「こんにちは。」
「あら、奥田さんのお孫さん。こんにちは。」
「これ、おむつ持ってきました。」
聖母マリア像が飾られた病棟の入り口にも驚いたし、柔らかい色合いの壁紙や床材が使用された他の病棟とは違う雰囲気にも驚いた。
「それと替えの服はいつもの場所に入れておきますね。」
「ありがとうございます。奥田さん、今日は調子が良いみたいですよ。」
「良かったです。」
・・・忍さんのおばあちゃんが入院されているのか。
看護師さんとの話が終わった忍さんは、おもむろに俺の手をギュッと握った。
「!!」
「お願い、ばあちゃんの前だけでいいから、ぼくに合わせて欲しい。」
はしばみ色の瞳が俺をジッと見つめた。
「分かりました。」
ホスピスということは、残りの命は長くない。
そのおばあちゃんのために、芝居を打つ。
なんだか切なくなって、握られた手をしっかりと握りなおした。
強く握り返された手に、忍さんは一度目を見張った後、微笑んでくれた。
「ありがと。」
ふたりで奥の病室へと向かった。
ホスピスは静かで、穏やかで、まるで教会のような空気に満ちている。
忍さんが立ち止まった部屋の前で、俺は静かに深呼吸をした。
どんな芝居をするのかは、分からない。
分からないけれど、死に寄り添おうとしている彼を、ほんの少しでも守ってあげたいと思った。
コンコン。
ノックをした忍さんは、ゆっくりと扉をスライドさせた。
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