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「・・・どう、いう・・・。」
会える確信があって、ここに来た。
連絡先を知らなくても、ここにさえ来たら会えると思っていた。
『テナント募集中』
つまり、忍はもう居ないということだ。
足元がゆらゆら揺れている気がする。
よろよろとその場にしゃがみ込んだ。
血の気が引く、という状況に、俺は酷く動揺していた。
「し、しの・・・ッ!」
忍!
忍、忍!!
おばあちゃんのところにいるかもしれない。
でも・・・。
ホスピスにいるおばあちゃんに、俺一人で行ったって部屋に入ることは許されないだろう。
それに病院の入り口は、正面以外にもある。
闇雲に行っても、会える可能性は低そうだった。
『テナント募集中』
昨日は、なかった。
営業をしていたのだ、キツネに騙されない限り、テナント募集中の店舗に入り込むことは無い。
そして、キツネに化かされるなんて迷信以外の何者でもないのだ。
そうだ、不動産屋!
ここに聞けば何か分かるかもしれない。
おばあちゃんのところは、その後だ!
テナント募集の貼り紙の下の電話番号を睨みつけながら、携帯をタップしていく。
その不動産屋は、表通りにあるのが分かった。
震えっぱなしの右の手のひらで、額から顎へ向かって顔を覆いながら、不動産屋に何て話を切り出したらいいのかを思案した。
正面から聞いても、個人情報だと言って教えてくれないはずだ!
・・・忍。
お前はどこにいるんだ?!
昨日は、店を閉めるなんて一言も言ってなかった。
いきなり過ぎるだろう!!
・・・ああ、そうか。
俺は家族でも友だちでもない。
説明なんて、要らないか・・・。
考えてみれば、その辺で拾った男だ。
セックスして、店手伝わせて、病院で婚約者のふりをさせただけの、ただの道化だ。
俺なんて、忍にとってはそれだけの存在なのだ。
何だかストンと腑に落ちて、絶望感に苛まれた。
パチンコ屋の裏口が開くたびに、この通りは賑やかな音に包まれる。
この騒音を、忍は幼い頃から聞いていたに違いない。
そう思うと、騒音も嫌いになれなかった。
自動扉が閉まると、また静かな通りへと変わった。
テナント募集中をジッと見つめる俺に、声を掛ける人物がいた。
「・・・あんた、何してんだい?」
振り返ると、景品交換所から出てきたばあちゃんが、歯の抜けた顔で笑っていた。
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