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「なるほど。行方知れずになってしまったのね。」
「はい。それで、テナント募集の不動産屋にも当たりたいんですが・・・。」
山田さんは肩を竦めた。
「無理ね。教えてくれる訳がないわ。」
「はい、俺もそう思います。」
お酒の瓶が並ぶカウンターは、埃ひとつない。
店を開けなくても、きっとこの人は毎日のように通って綺麗にしているのだと思う。
「・・・ちなみに、その不動産屋の名前は分かるかしら。」
「分かります、写真にも撮りました。」
スマホの写真をタップして見せた。
「ね、新里さん。期待はしないで待っていてね。」
そう言うと、山田さんはふらりと店を出て行った。
その背中を加藤とふたりで見送ってから顔を見合わせた。
「・・・どこ行ったのかな?」
「分からん。けど、ダメだったとしても山田さんを恨むなよ!」
「当たり前だろ。」
失礼な物言いだけど、加藤は消えた扉に向かって手を合わせている。
きっと足掛かりになりそうな話を持って帰ってきてくれるのを、加藤も祈ってくれているに違いなかった。
「加藤・・・ありがとな。」
「は?・・・え!あ、いやいや気にしないでくれ!」
大袈裟に手を振る加藤に笑いかけた。
「いや、感謝しかないよ。」
「心が痛む!」
え?
「なんでもないなんでもない!」
大袈裟に両手を振り回す加藤を見ながら、俺は思案の海に飛び込んだ。
明日も、広場に行こう。
広場なら仕事終わりに通える。
・・・でも、忍の狩場が変わっていたら?
不動産屋しか、もう思いつかない。
確証のない再会を望むのは、俺だけなのかもしれない。
忍はもう、俺には会いたくないのかもしれない。
そう思うと、胸が潰れそうに痛かった。
ひりひりと焼けつくような痛み。
これは、間違いなく片想いの痛みだ。
誰かに抱かれているかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうなほど苦しくなるのは、嫉妬の痛み。
なのに肝心の忍は、
「賞味期限切れの卵・・・。」
意味不明の言葉を残して去った。
「・・・なあ、新里。」
「ん。」
加藤は山田さんの消えた扉を見つめている。
「もう分かったろ、諦めろよ。」
「・・・。」
加藤の手が震えていた。
「友だちに言うべき言葉じゃねーかもしれねーけど、縛られるの、やめろ。」
「・・・。」
俺は自分の手を見つめた。
「一度。一度だけ、この手で掴んだんだ。」
「うん。」
「・・・今朝は罪悪感しか無かったけど、自問してるうちに気がついた。」
おっさんの手。
忍は、綺麗な手をしていた。
「・・・じゃあ、下手クソだったって気付いたんだ?」
「は?」
意味不明の言葉に、俺はビックリして顔をあげた。
「鞭だって、手錠だって、相手が納得しないと無理に決まってるんだ!」
加藤から肩を揺さぶられた。
「ろうそくも止めろ。な?分かるだろ?!」
理解が追い付かなくて、思わず加藤の肩を突き飛ばした。
「分かんねーこと言ってんじゃねーよ!」
「この、分からずや!!」
尻もちをついた加藤は、俺に向かって叫び続けた。
「お前が賞味期限切れの卵なんだ!このあんぽんたん!」
「!!」
あん、ぽんたん・・・。
俺は呆然と加藤を見下ろした。
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