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お家に帰ると、お店の前にすでに不動産屋さんのおじさんが来てくれていた。
「ああ、忍ちゃん。お疲れ様だったね。」
「いえ、お参りに来てくださってありがとうございました。祖母も喜んでいると思います。」
おじさんには、お店の鍵を返さなければならない。
忍は胸をヒリヒリさせながら、財布に入れた店の鍵を取り出した。
「鍵、ありがとうございました。無事、コーヒーと玉子サンドをお供えできました。」
「ああ、それは良かった。・・・ところで、備品の確認をしたいんだけど、一緒にいいかい?」
骨壷を抱えた歩さんを見た。
歩さんは笑顔で頷いた。
「忍、おばあちゃんもお店に入りたいだろうから、俺も一緒に入るよ。」
「あ、うん。・・・おじさん、遺影を飾っても良いですか?」
おじさんは、優しい目でぼくが下げた紙袋を見つめた。
「そこにいるんだね?」
「はい。」
遺影と位牌。
大切なおばあちゃんが、ここにいる。
「・・・きっと店に帰りたかったはずだよ。さあ、入ろう。」
「はい。」
おじいちゃんとふたりで切り盛りしていた。
ふたりにとって、大切な思い出の詰まったお店だ。
手に握りしめた鍵で扉を開けると、いつもの香りが鼻腔をくすぐった。
染み込んだコーヒーの匂いは、おじいちゃんとおばあちゃんの人生そのものだ。
全体が見渡せるカウンターに骨壷を置いた歩さんに寄り添って、ぼくは遺影を取り出した。
「・・・その写真は、この店にアルバイトに来てた頃のものだよ。」
「え?」
不動産屋のおじさんは、懐かしげに目を細めた。
「忍ちゃんのおばあちゃんは、みんなのアイドルだったんだ。」
「・・・へぇ。」
おばあちゃん、ここにアルバイトに来てたんだ。
「そこでおばあちゃんを取り合った?」
位牌を置くと、おじさんは手を合わせてくれた。
「取り合った取り合った。もうこの街には居ないけど、ガソリン屋の息子と3人で気を惹こうと毎日必死だったよ。」
ふふ、おばあちゃんモテモテだ。
「・・・懐かしいなぁ。」
感傷に浸るおじさんの背中を見てから、ぼくはカウンターの中に入った。
今はもうぼくのものではないけれど、コーヒーを淹れるべきだと思ったのだ。
二階から下ろしておいたコーヒー豆をミルの中に入れて砕いていく。
ハンドルを回すと、そのゴリゴリという独特の振動が心地良くて、コーヒーを淹れるのが好きだったのを思い出した。
挽きたてのコーヒー豆の香りがふわりと立ち上り、自分自身の心が癒されていくのが分かった。
『あの時の忍は、イキイキしてた。・・・喫茶店の仕事は嫌いか?』
嫌いじゃないって答えたけど、本当は好き。
おじいちゃんがたてたようなコーヒーを淹れるの、好きだった。
・・・どうしよう。
お店、手放しちゃった。
後悔に胃がキリキリと痛んだ。
と、そこでお店の扉が開いた。
「・・・お邪魔します。」
え?!
そこには金髪の男性が、豊満な胸を押さえながら入ってきたのだ。
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