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そんな事を言われた大久保は面食らった。
初対面のご老人に、そんな事を言われる謂われは無いのだ。
・・・だけど。
新里さんに言われてのこのこやってきたが、確かに息子の気持ちを考えていなかったかもしれない。
今までわたしは、教育者としての立場でしか息子と会ったことはないのだ。
・・・きっと、すみれの13回忌の事は小さかったから覚えていないだろう。
教え子として教室にやってきたときは、泣きそうになった。
数ある大学の、しかも自分の講義する授業を選んでくれた奇跡は、すみれがくれた最高のプレゼントだと思った。
だけど、それと同時に、絶対に父親だと話さないと決めた。
いや、正確には話せないと思った。
自分は結婚し、子どももいる。
今更、どんな顔をして父親だと言えるだろう。
このことは、墓の中まで持って行こうと思っていたのだ。
なのに。
「・・・お義母さんが亡くなったと聞いたんです。」
新里さんに抱きしめられている忍は、わたしの言葉を聞いて目にいっぱいの涙を湛えた。
「息子とわたしが呼ぶのは おこがましいかもしれませんが、どうしても息子にあの時のことを話したいと思いました。」
今でもふとした時に思い出す。
急にすみれが消えてしまった、あの朝の事を。
そして、胸が焼けるように苦しくなるのだ。
「・・・確かに、わたしは新しい家族をつくりました。ですが、息子のことを忘れることなんて出来ませんでした。」
すみれの笑顔も、その温かな手も。
「会いたいと思っていました。ずっと大切に思っていました。」
忍がぽろりと涙をこぼした。
その涙に、胸がいっぱいになった。
「・・・その人は大切な人かい?」
問いかけると、忍は新里さんの顔を見てから、わたしに頷いてくれた。
そして次の瞬間、忍は耳を疑う台詞を吐いた。
「お、お義父さん、息子さんをぼくにください!」
・・・その場にいた全員がぶっ飛んだ。
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