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春の嵐は強風を伴う。
その威力は、店内の忍を除いた全員をよろけさせる程の力を持っていた。
一番の部外者である風見は、こういったカオスを経験したことがある。
それは小夜が巻き起こしたこともあるし、光太郎くんが巻き起こしたこともあった。
その度に巻き込まれ、そして慣れていったのだ。
・・・これは、確実に勘違いの結果だ。
こういった時にこの場を仕切っていいのは、部外者だ。
そうでないと、混迷する。
これは風見の経験からくるところでもあるし、小夜という天然のパートナーを持つ宿命でもあった。
「まず、座りませんか?」
勇気の一言は、この場にいる全員の心に響いたようだった。
不動産屋のご老人を助けながら、カウンターに座らせた。
他の人たちも続々とテーブルに着いていく。
彼らが自然にグループごとに座っていくのは、心の近さが関係する。
つまり、今回のカオスを引き起こしたことに関する行動の所以(ゆえん)が、このグループ毎にあるということだ。
ちっこいおじいちゃんたちについては、単純な理由で襲ってきたんじゃないかと推測できるから、まずは、こっち側の関係を明白にするべきだな。
風見の隣に寄り添う小夜にカウンターに座るよう優しく言ってから、風見は渦中の中心に立った。
「忍さん、新里さん、まずは婚約、おめでとうございます。」
ふたり仲良くテーブル席に座った彼らに話しかけた。
忍さんは真っ赤な顔で、新里さんはちょっとだけ困った笑顔で頷いている。
何となく、というか、確実だが、忍さんは小夜タイプだ。
勘違い暴走で体当たりするところをみると、小夜と光太郎くんの上を行くあの子並の破壊力を備えている。
言葉は、主語を絶対に省いてはいけない人だ。
「あなたのお名前を教えていただけませんか?」
背広の人物は、この場の最重要人物だ。
押さえる必要がある。
疲れた顔をした彼は、新里さんたちの隣のテーブルにひとりで座っていた。
「大久保と申します。」
「では、大久保さん、あなたは何故ここにいらっしゃるのでしょうか。」
完全に自分のことは棚に置いて質問した。
だって俺こそが何故ここにいるのか分からない。
「・・・息子が、身寄りを亡くしたと聞いて、いても経ってもいられませんでした。」
きた。
きたぞ。
風見は忍さんの顔を見ながら、大久保に問いかけた。
「大久保さん。息子というのは、どなたのことでしょうか。」
大久保さんは立ち上がって叫んだ。
「奥田さんです!奥田 忍です!!」
・・・忍さんの顔が真っ白になった。
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