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冬の間に縮こまった体が、春の陽射しに緩む感覚。
これは四季のある日本に住むものなら感じたことのある感覚だろう。
ドサッ!
店の開け放たれた扉から投げ捨てられた俺は、春の透き通った青空が目の前に広がったことに、一瞬、呆然となった。
「あんれ、兄ちゃん。捨てられたのかい?」
「何やったんだ?浮気か?」
わらわらと、ちっちゃいじいちゃんたちに覗き込まれて慌てて飛び起きた。
「してない!アイツが忍に襲ったんだ!!」
硬く閉じられた扉の取っ手を掴んでガチャガチャといわせたが、びくともしない。
ガラス越しに覗き込むと、あの野郎が立っていた。
あの、ノッポ野郎!!
二階のおばあちゃんの部屋に置いたままの母子手帳やらを取って戻ってみれば、忍はアイツに抱きつかれて「死にたい!」と叫んでいた。
思わず殴りかかって ぶっ飛ばしたものの、もう数発叩き込まないと気が済まない。
なのに、あのノッポ野郎につまみ出されてしまった。
「・・・クソッ!」
どうにかして中に入らなければ。
忍を救わないといけない。
どういう経緯か分からないけれど、プロポーズされたんだ。忍はもう俺の嫁同然!
「兄ちゃん、忍ちゃんのことが好きなのかい?」
「好きです。危なっかしくって、目が離せません。」
じいちゃんたちが、かわるがわる俺に質問してきた。
「あの子は今まで我慢ばかりしてたの知ってるかい?」
「知ってます。おじいちゃんとおばあちゃんの仕打ちも。」
クソッ!
ビクともしねぇ!
「可哀想な子だよ。すぐに諦める子なんだ。」
「知ってます。アイツは無償の愛を知らない!」
おじいちゃんもおばあちゃんも、愛情がなかったとは言わない。
言わないけど、あの遺言を見た忍の顔は、絶望に染まっていた。
身勝手な大人に振り回された、可哀想な子なんだ!
「幸せにできるかい?」
「します。そのつもりで父親も連れてきた。」
大事なんだ。
ついこの間、拾ってもらったばかりだけれど。
もう、この気持ちは抑えられない。
大人の外聞も何もない。
忍を幸せにできれば、それでいいのだ。
「なら。」
「あかねぇ!!」
取っ手を握る俺の手の上に、皺くちゃの手が重ねられた。
「なら、このジイとバアが協力してやるよ。」
「・・・え?」
ちっこいじいちゃんとばあちゃんたちが笑って言った。
「ここはジイたちに任せろ。そのかわり、忍ちゃんを任せたよ。」
「もちろんです。俺の一生をかけて幸せにします。」
俺は真剣な面持ちで、じいちゃんたちに頷いた。
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