アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
108
-
------------※ ※ ※------------
「ここはジイたちに任せろ。そのかわり、忍ちゃんを任せたよ。」
俺は、店の前でしっかりと頷き、約束した。
「もちろんです。俺の一生をかけて幸せにします。」
じいちゃんたちは、輪になって話し合い始めた。
俺は硬く閉じられた扉の向こうを何とか覗けないかとガラスの奥を見たが、やはりノッポ野郎が邪魔で見えない。
・・・チッ。
「兄ちゃん、ここは任せて裏に回んな。」
ハッとした。
だけど次の瞬間、無理なことに気づいた。
「二階への階段ですよね。二階の玄関は施錠してて今日は入れません。」
「なら、ここを突破するしかねぇか。」
紙パックの焼酎を取り出して、「安心しろ。」とにっこり笑って言ってくれた。
「兄ちゃん、チャンスを生かせよ。」
すぅっと息を吸い込むと、じいちゃんは扉にかじりついた。
「おしっこ!おしっこ行かせてくれや!!」
・・・思わずズッコケそうになった。
そんな常套手段、無理だろ!!
「ここでおしっこするぞ!兄ちゃん、開けてくれ!!」
・・・ちょうどその時、忍が母子手帳を読み始めたタイミングだった。
後ろを振り返った風見は、およそ感動的なシーンを壊すまいと頑張った。
し・ず・か・に!
指を口元に当てて、静かにするようジェスチャーした。
「おしっこ!おしっこ!」
やめてくれーッッ!!
背中に尋常じゃない汗が流れる。
このおしっこを許すと、感動的な親子のシーンにそれこそ水を差す。
し・ず・か・に!!
ふたりで過去へ旅をして、絆を深めている親子の邪魔はさせられなかった。
あっち!あっちに行って!!
パチンコ屋を指差すが、ちっこいじいさんたちは容赦ない。
「お母さん、最期の日まで書いてくれてる・・・。」
は、早く読んで!
読み切ってキリのいいシーンまで飛ばしてくれ!!
感動的なシーンも、風見にとっては地獄だ。
目の前ではおしっこと叫ぶじいさんが扉を開けろと叫んでいるのだ。
雰囲気を壊すまいと、必死でジェスチャーを繰り返した。
あっ・ち!あっちのトイレをか・り・て!!
焼酎の紙パックを持って叫ぶ相手だ。
通じないのは、分かる!
酔っておしっこが我慢できなくなる感覚も、よぉ〜く分かるが、
い・ま・は・だ・め!!
ガラス越しにベルトを緩められて、風見の緊張はピークに達した。
ここでしないでーーーーッッ!!
こんなに祈ったのは、小夜が誤認逮捕された時以来だ。
めちゃくちゃ焦った。
パチンコ屋に引きずっていかなければ!
人の放尿をガラス越しに真っ正面に見る勇気もへったくれもなかった。
「お父さん、お父さん・・・っ!」
「忍!」
いい?!
今終わった?!
キリが良いよね?!
チャックに手をかけたジジイを止めるべく、風見は扉の鍵を開けた。
そして大きく開いた扉に飛び込んできたのは、ジジイともう一つの影。
・・・しまったッ!!
モノを取り出そうとしたジジイの腕を抑えることに集中したあまり、そう、忘れてしまったのだ。
新里の存在を。
「キャーーーーッ!やめてぇ!!」
小夜の叫びが、昭和レトロな喫茶店にこだましたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
108 / 201