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嬉しいこと
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熊澤side
「──引退試合が今月末にありまして、よければ見に来てくれないかなー…なんて」
控え目な口調で言う犬養と目が合う。ニコニコと笑う犬養は、やはり何を考えているか分からない。
「別に構わんが…」
断る理由もないし、苦手とは言っても大切な一人の生徒だ。誘ってくれたなら行かない訳が無い。
そして、嬉しかったのも事実だ。俺は自分が生徒から怖がられていることを知っている。だからこうして、犬養が、気さくに話しかけてくれて、大切な自身の引退試合にまで誘ってくれて、嬉しくないはずがなかった。
「やったぁ!ありがとうございます!俺、センターなんで、カッコイイとこ見ててくださいよ」
犬養の顔が一層明るくなり、声が弾む。
俺はハッとして、そして安心した。やっと犬養が感情を見せたと思ったからだ。心の底から、俺が試合に来ることを望んでいるのが分かり、気付けば微笑んでいた。
「ああ」
「え……」
すると犬養は驚いたような顔をして、目をゴシゴシ擦ったり、頬を抓ったりした。
「む、どうかしたか?」
犬養の突然の奇行に戸惑う。やはり読めない男だ。
「い、いやいやなんでもないです。じゃあ俺の引退試合、絶対来てくださいよー!」
それだけを言い残して犬養は急ぎ足に行ってしまった。
一体どうしたのだアイツは……。
とは思いつつも、嬉しくて仕方がない。
「犬養は、相変わらずですね」
隣の席の福山先生がにっこりして話しかけてきた。さっきのやりとりを見ていたのだろう。
「僕の授業の時も、ふざけたりするんですけど、なんと言うか、クラスの雰囲気を良くするムードメーカーって感じで。ほんと、いい生徒ですよね」
ムードメーカー。確かに犬養の周りはいつも笑顔が絶えない。
「ああ、いい生徒だ」
俺は首肯した。
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