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蛇ノ目という生徒
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熊澤side
「聞きました?3年2組の転入生のこと」
「聞きましたよ!」
「あのピアスだらけの……」
「そうそう。なんだか怖いわね」
「蛇ノ目とかいう名前でしたっけ?」
蛇ノ目イサカという生徒が転入してきてから数日経った。早くも職員室で話題となっている。
仕方の無いことだろう。あの見た目では怖がられることだ。
「蛇ノ目イサカ、怖いですよね。僕この前授業に行ったんですけど、ずーっと窓の外を見てて、それを注意したら睨まれちゃいました」
福山先生が苦笑する。俺はその言葉に驚いた。
「いや、蛇ノ目はそんな生徒ではないだろう」
思わず口を挟む。事実、先だっての古文の授業では至極真面目でその上、積極的に発言をしていた。見た目と反して模範的な優等生だと思った記憶がある。
そのことを言うと、福山先生は目を丸くした。
「本当ですか!」
「嘘は言わん」
「うーん、変ですねぇ。古文が好き…とか?」
「おおかたそんなもんだろう」
「ええ……」
福山先生は納得しかねたように曖昧に頷いた。
その時だった。
「失礼します、熊澤先生」
噂をすれば影。俺の名前を呼んだのは職員室を訪ねてきた蛇ノ目だった。
蛇ノ目はまっすぐ俺の席まで来ると、突拍子もなく言った。
「ヨーヘイ、俺の事覚えてるか?」
「む…」
前に会ったことがあるかと思い、まじまじと蛇ノ目の顔を見つめるが、やはり記憶にない。
「やっぱり覚えてねぇのか」
がっくり肩を落とし、しゅんとして言う。
「すまん…」
何が何だか全くわからんが、妙にすまなく思って謝った。
しかし、
「洋平と呼ぶな。あと敬語を使え」
言うべきことは言わせてもらう。
「そんな固い事言わないでくれ。
…4年前の体育祭、覚えてないか?俺が中学2年の時、淀三矢の体育祭に行ったんだぞ」
はて、4年前……。
ゆっくりと記憶を手繰り寄せる。そしてもう一度、蛇ノ目の顔を見た。
…!!!
思い出した。思い出したぞ。
「入場門の支柱が倒れてきて、それでヨーヘイが俺を庇ってくれたんだ」
「ああ、そうだったな」
入場門の支柱の部分、つまり鉄パイプが強風によって客席に倒れかかった。そこには中学生がいて、俺は咄嗟にそいつを庇った。
強い衝撃が肩から背中にかけてを走り、一瞬息が詰まったが、俺が庇った中学生は無事だった。
その時の中学生こそが、今目の前で嬉しそうに笑う蛇ノ目イサカだ。当時とあまりに違いすぎて、本当に分からなかった。
「思い出してくれたか!そうだ、あの時から俺はお前が……」
そう言って蛇ノ目は俺に近寄り、両の手を俺の頬に添える。
蛇ノ目の瞳が、ギラリと光った刹那、
「失礼しまーす!熊澤せんせー!資料忘れて…」
犬養が、俺の授業用の資料を手に職員室に入ってきた。
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