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犬養side
古文の授業が終わって、熊澤先生が教室から出て行くと、途端に教室は騒がしくなった。
皆でガヤガヤ喋っていると、不意に松尾が教卓を指さした。
「あれ、熊澤先生忘れてね?」
見てみるとそこには先程の授業で使った資料の束が置かれていた。
「ほんとだ」
「どーする?」
「えー、届けるのめんどくね?」
「気付かないふりしよ」
「おま、それは駄目だろ」
口々に生徒が喋り出す。
熊澤先生を怖がっているのか、誰も届けようとしない。そのことに妙な満足感を覚えつつ、俺はにっこり笑って言った。
「じゃあ、俺が届けてくる!」
そして今に至る。
「失礼しまーす!熊澤せんせー!資料忘れて…」
最後まで言いかけて、飛び込んできた光景に心を奪われてその後の言葉が出てこなかった。
蛇ノ目イサカ。ついこの間やってきた転校生。ピアスだらけで素行も悪く、誰ともつるもうとしない。
その彼が、愛しそうに目を細めて熊澤先生を見つめている。その両手は先生の頬を優しく包んでいる。
イラッ。
ムカムカした嫌な黒い感情が腹の底から沸々と込み上げてくる。ザワザワと怒りが沸き立ってくる。
なんで、なんで俺は今こんなにも腹が立っているんだろう。
「熊澤先生、早くその手を払い除けてくださいよ」
気を抜けば本当にそう言ってしまいそうだった。誰にでも怖くて、誰からも怖がられている。そんなあなたが、どうして蛇ノ目に心を許しているんですか。どうして嫌がらないんですか。
俺だけだと思ってたのに。俺だけがあなたと仲良くできると。
……仲良く?
いや、そんな生ぬるい感情ではない。もっと激しくてもっと熱烈で、今まで感じたことがないようなマグマのように熱い感情。
この感情の正体は、一体なんだ。
『自分の気持ちに蓋すんなよ』
突然、大木の言葉が頭に浮かぶ。
ああ。やっと分かった。
好きなんだ。
俺は先生のことが好きなんだ。年の差だとか性別だとか、そんなことは今やどうでもいい。
自覚した瞬間、胸の中に愛しさが込み上げる。それと同時に嫉妬や独占欲が頭をもたげる。
こんな感情、知らない。今まで味わったことも無いほど強くて荒々しい。
「せんせ、忘れてたんで持ってきましたよ」
どうにか心を落ち着けて、黒い感情を押し留め、顔に笑顔を貼り付けた。
ズカズカと職員室の中に入り、熊澤先生の机の前で足を止める。
蛇ノ目イサカはゆっくりと手を離し、俺を見てニヤリと笑った。そして熊澤先生に向かって一言。
「…だってよ。ヨーヘイ」
洋平?
下の名前で呼ぶな。
内心不快な気持ちがありながらも、俺は笑顔を崩さない。
「忘れていたか。わざわざすまないな」
熊澤先生が言った。
「それより犬養、額の傷は平気か」
心配そうに俺を見上げる先生が愛らしくて仕方がない。
「大丈夫です。心配してくれたんですか」
「当たり前だろう」
あー、先生。好きです。俺の傷なんて大したことないのに、それでも案じてくれるあなたはなんて優しい人なんですか。
「俺が活躍したとこ見てました?」
「うむ、よかった」
「あはは、嬉しいです」
「なぁ、もう用は済んだろ。早く帰れよ」
不機嫌そうな声がした。蛇ノ目が面白くなさそうに眉を寄せる。狡猾そうなその目は俺をはったと睨んでいる。
「ヨーヘイは俺のだ」
「あのさ、喋ってるとこ遮るなよ」
「はぁ?もとは俺が喋ってたんだが」
「俺の方が重要なんだよ話が」
「よさないかお前達…」
熊澤先生が呆れたように言った。
「二人とも、もう帰れ」
有無を言わさない様子の先生に、俺達は半ば強制的に職員室からつまみだされた。
「…お前のせいだぞ」
隣で蛇ノ目がボソリと言った。
「黙れ」
いつになく強い言葉が出た。
蛇ノ目イサカ。こいつは完全に……。
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