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三人の王妃6
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「いわゆる、下級貴族の令嬢でな。傾きかけた生家を持ち直すのに尽力していたら嫁に行く機会を逃してしまっていたという、なかなか豪快な女性だった。出自故に本来ならば王家との婚姻の話が上がる女性ではなかったのだが、芯が強く豪胆なところを見込んだレクシィが、どうか王妃にと懇願してくれたのだ。なにせ、これまでに二人の王妃が奇病で亡くなっているからな。三回目の婚姻ともなると、こちらから話を持ちかけることは躊躇われる状況だった。だがそれでも、私たちは王妃の死の原因がどこにあるのかを確かめなければならなかったのだ。王家の血を残すことは、王族としての義務だからな」
そう言った王が、またひとつ息を吐き出した。
「レクシィはな、彼女を王妃として迎える栄誉を伝えに行ったのではない。国のために死んで欲しいと頭を下げに行ったのだ。そして私は、それを知っていて止めなかった。国のために、そうすることが最善だったからだ」
少年の方からは、肖像画を見つめる王の背中しか見えない。だから、彼が今どんな表情をしているのかは判らなかった。
「贄として選ばれた彼女に迷う様子はなかったそうだ。こうして妃として迎えた彼女と初めて閨を共にしたときに言われた言葉が、またこの上なくてな」
やはり王の表情は見えないままだったが、少年の耳は王が小さく笑ったのを捉えた。尤も、それが純粋な笑みなのか自嘲なのかまでは判断できなかったので、その真意は不明だ。
「このような大役を賜ること、心から光栄に思います、と、そう言われたのだ。己が贄であることを十全に理解し、これから行われる行為の末に迎える結末を知った上で、彼女はなお毅然とした態度で微笑んだ。本当に、心から幸福だというかのように。……いや、訂正しよう。彼女は心から幸福だと思っていた。私という王のために死ぬのならば、それこそ本望だと、そう思っていたのだ」
王の手が、ゆっくりと額縁から離される。そんな彼の背中を見て、少年は何度か口を開いては閉じて逡巡したあと、静かに落とすように音を紡いだ。
「……貴方、は、かなしかった……?」
囁くようなその声に僅かに肩を揺らした王は、ゆっくりと少年を振り返った。そして、いつもの笑みを湛えて彼を見る。
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