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三人の王妃7
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「悲しかったとも。妻を亡くしたのならば、悲しまねばならない。王妃を喪ったのならば、憂えなければならない。国民を殺してしまったのならば、それを重責として感じなくてはならない。そうだろう?」
それは、怖気がするほどに無機質な言葉だった。もしかすると、ロステアール・クレウ・グランダという男の本質の一端が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。
(こ、の、ひと、は……)
怖いと、心から少年はそう思った。目の前にいる男が、酷く恐ろしい何かであるように思えて仕方がないのだ。警鐘がどこか遠くで鳴り響いているようで、今すぐ逃げなければいけないような気さえしてくる。
だが、それでも、
(……なんて、かわいそうな人なんだろう……)
少年の心を真っ先に満たしたのは、憐憫にも悲嘆にも似た何かだった。
警鐘は鳴り止まない。意識の奥底で誰かが悲鳴を上げているようだ。けれど、少年は一歩を踏み出す。その足が向かう先に彼がいることを知っていてなお、足を止めることができない。
「…………貴方、」
声が震えたのは、きっとこの上なく悲しくて、この上なく嬉しいからだ。少年がそれを認識できたかどうかは、判らないけれど。
おずおずと伸ばされた手が、男が纏う衣に触れる。本当に頼りなげな力でそれを握った少年は、まるで傷ついた獣に寄り添うような慎重さで、そっと彼の前に立った。
俯けた顔では、男の表情を見ることはできない。でも、少年はここで顔を上げてしまったらいけない気がした。だから、ただ黙って彼の傍にいる。
頭上で小さく息を呑むような音がして、それから、高めの体温が少年の頬を慈しむように滑った。それはきっと、豪奢な額縁を撫でたあのときよりもずっと温かで優しいもので、だからこそ、少年は思わないではいられないのだ。
どうか、少しでも――
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