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オフィスへ入ると、数人の同僚達がこちらへ駆けてきた。
皆して眉を下げ、慌てて席を立つものだから、何か重大なミスでも発覚したのかと一瞬身体が強張る…が。
「澄晴!昨日は悪かった!」
「オレも本当にごめん…。」
「え…?」
俺の予想は外れたようで、彼らは前屈みの俺よりずっと深く頭を下げていた。
口々に謝罪をぶつけられ、理解の追いつかない頭はこの状況に混乱するばかりだ。
「な、なんの事だ?」
「なんのって…昨日、澄晴の番にひどい事言ったろ…?あの人にもお前にも、悪かったなって俺ら反省してさ…。」
「あぁ!あの時か…。」
ようやく点同士が繋がり、線になったところで
続々と出社してくる社員達の視線が気になって仕方ない。
少し前まで俺に対し、横柄な態度をとっていたこいつらが、揃いも揃ってこれじゃあな。
ほら…やっぱり、来碧さんの言っていた通り。
わざとじゃ、なかった。
「俺も突然怒ったりして悪かった。頭上げてくれよ。
悪気がなかった事は俺も来碧さんも、ちゃんとわかってるから。」
「…本当か?」
「本当だよ。だからもういいから。
ほらっ。仕事するぞ!ちょっと腹痛いから代わりに電話取って貰うかもしれないけどいいか?」
「おう!任せろよ。つか腹大丈夫か?」
「ああ。薬も飲んだしカイロ貼ってあるから時期に良くなる。」
来碧さんを周りに認めてもらえた喜びと
彼らといつの間にかこんなにも対等に会話が出来ている喜び。
αばかりの職場である以上、これでもまだ一般的な普通とはかけ離れているのかもしれないが
幼い頃から願っていた生活を手に入れられた。
そんな気がした。
彼らは俺の頼んだ通り、自分の仕事をしている間も俺の担当する商社からの電話に積極的に対応し、簡単な調べ物は自らこなしてくれる。
俺が資料を控えているものも、部署内のみで通じる簡単なメッセンジャーソフトで質問してくれたり、俺の移動を最小限に抑える努力が伝わって。
…これは、俺もお返ししてやらないとな。
バタバタと作業に追われ、話す時間も作れなかったせいで「もう大丈夫だ」と同僚に伝えられたのは昼休憩になってからだ。
それでも、彼らは今までの事もあるんだからと協力的で。
この環境に味を占められるほど俺の性格は歪んでいない。
腹痛もすっかり良くなったし、帰りがけにコンビニにでも寄って缶コーヒーと片手で摘める菓子でも買って行ってやるか。
最近は来碧さんが仕事復帰した事もあり、家に帰っても一人だからと
彼が遅番の日なんかはコンビニで新商品のスイーツを眺めたり、いつかの公園で退屈したりする事もしばしば。
最近出たあのチョコレート菓子、そんなに甘くなさそうだし男でも食えない事はないだろう。
どうせなら、来碧さんの分も何か買って行こうかな。
特に珍しくもなくなった定時退社で外に出れば、夕日がビルの隙間にゆっくりと沈んでいく橙色の風景が広がっていた。
…来碧さんも、そろそろ仕事終わる頃か?
元はと言えば、俺が送る予定でいたんだし
車通勤の来碧さんを電車でお迎え…なんて相変わらず格好悪い話だが、サプライズで向かったら少しは喜んでくれるだろうか。
ここ数日、毎日来碧さんと会えていた事で妙に足取りは軽く
彼の笑顔見たさに、つい自宅とは反対方向の電車に飛び乗ったのだった。
勿論降りた駅はXX警察署前駅。
『仕事早めに終わったから、そっちに向かってる。
よかったら一緒に帰らない?』
来碧さん宛にメッセージを送信し、ついでに近くのコンビニを探す。
普段なら直ぐに既読されるそれに、今日はなかなか反応が来ない。
不思議に思いつつも、来碧さんだって仕事中かもしれないのだからと自身に言い聞かせ、特に気にする事は無かった。
これが大きな誤算だったと気付くのは
それから直ぐの事だ。
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