アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
side.r
-
どう、して…。
こんな所で、会ってしまうなんて。
あれから約10年。
互いに面影なんか殆ど無いというのに。
ほんの一度きり顔を合わせた相手。
まともに会話をしたわけでもない。
ただ、思春期のαらしく
ただ、制御を覚えていないΩらしく
発情期を経験しただけに過ぎないのに。
「あれからさぁ、俺なーんか物足りなかったんだよ。
どこのΩと寝てもしっくり来ねえの。
番持ちもいくつか試したけどダメだったわァ。」
耳にかかる知らない吐息と、挑発めいた低い声。
引き寄せられて、首元にざらついた舌が這う。
心臓が、今にも飛び出てきそうで
頭は急激に体温が下がって、痺れて。
がくがくと大げさに揺れる膝が身体を支えていられるのは時間の問題だろう。
「お前も気付いてたろ?俺達が運命だって。
あの時だって俺が挿れてる時が一番反応良かったんじゃねえの?」
「し……らな、離せ…ッ。」
「可哀想だなァ?運命でもない奴に番われちまうなんて。
俺に噛まれときゃよかったのにさぁ!」
「ひッ…!」
この数日、俺の頭から一刻たりとも離れてくれなかった男が
俺と運命で繋がっているαだったなんて。
…それも、犯行動機のうちの一つは
奴の言い分を聞くに間違いなく俺だ。
俺の存在が、顔も知らない他の何人もに深い傷を負わせた。
「オラ、抱いてやるよ。番なんかよりずっとイイと思うぜ?
なんたって俺達は“運命の番”なんだからよォ?」
「…ッ、ぁ…う、ぉえっ……ひぐッ…!」
密着すればわかる、その男の匂いは
思考を混乱させるには十分で。
これまでに習ってきた護身術であったり、逆に相手を取り押さえる術であったり
身体に教え込んできた全ての事が、まったく行動に移せない。
身体が言う事を聞かない。
動けない。
それは男の力が強いからではなく
恐怖に足がすくんでいるからでもなく
俺の、俺じゃない部分がこの男を拒めていないからだ。
理性も吐き気も差し置いた、運命のαを求める本能が。
胃の中の物が逆流し、喉がパクパクと口を開け
それに合わせて肩が揺れた。
息苦しさに生理的な涙が視界を滲ませる。
……無理、もう…吐く……ッ。
「っえ、ゲェ…ォエっ……ゔ…ァエ゛ッ…。」
「はぁ?てめェ吐くなよ汚ねぇな!
服に着くだろうが…謝れよ!」
謝れ…だと?
どうしてお前みたいな糞野郎に俺が謝るんだ
そう、思っている筈なのに
「……さ、ぃ…。」
「あぁ?!」
番を持つΩが起こす拒絶反応は
お前が思っている何倍も何十倍も辛いものだ
「め、な……さい゛ッ。」
「聞こえねーよ!!」
今まで一体何人の罪の無いΩを
こうして暗闇の底へ突き落してきたんだ
「ごぇ゛んぁあ゛さい゛っっ!!」
俺は、お前に犯された被害者たちの無念を背負って
お前に法の裁きを受けさせなければいけないんだ
それなのに
なあ、どうしてだよ。
「っは。言えるじゃねえか…。
ここだと一目につくしよォ、場所変えるぞ。」
「……っ、」
俺はどうして、お前ごときに歯向かう事も出来ない。
「…つーか、なんかフェロモン出てね?お前。
やべ…マジで興奮してきた。」
「あ…ぅ、そ……っ。」
つい先日発情期を終えたばかりなのに
綾木にしか反応しない身体は何処か熱を持ち、まるで番う前のように自身の匂いが周囲に蔓延る。
いくら番が居たとしても
運命の相手は例外なのだろうか
そんな事があり得るのだろうか
何処までも、浅はかで愚かな俺の血。
所詮、淫乱で他よりも劣るΩ。
あぁ
これが運命を証明する本能の力だと言うのなら
今すぐにこの身体を使い物にならなくなるまで痛めつけてしまいたい。
自身の拳銃で、脳を、首を、心臓を
粉々になるまで
打ち砕いてしまいたい。
こんな身体いらない
こんな自分いらない
生まれて来なければよかった
死んでしまえばよかった
苦しんだあの日
涙を堪えたあの日
いつか報われる時が来るなんて思わずに
さっさと人生を諦めていれば
この手で幕を下ろせていれば…
「……う、めいの…α、様……ッ、ゔっ…。」
こんな、死ぬよりもよっぽどか辛い現実を
見せられなくても済んだのだろうか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 22