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18歳以上ですか?
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「一つだけ、質問してもいいですか?」
「はい…何でしょう?」
彼女が会話を遮ったのは、来碧さんとの馴れ初めを聞かれ、説明している真っ最中だった。
夜の公園でヒートを起こす場面に突入する寸前で断ち切ってもらえたのは、なんと幸運な事だろう。
「来碧の事、いつもそう呼んでいるんですか?」
「へ?」
「その、来碧“さん”って…。
歳は変わらないんでしょう、それなのにΩのあの子をどうしてそんな風に…?」
実際に鳩が豆鉄砲を喰らった時にどんな表情を見せるのかは知らないが
もしも俺が鳩であったなら、きっとこの顔をするだろう…という自信がある。
今、俺は誰がどう見てもお手本のようなポカン顔だ。
彼と出会い、時間を共にしていく中で
一度も考えていなかった事だ。
強引に連れ込んだ居酒屋で教えてもらった来碧という名前。
お巡りさんの名残から始まった呼び名なのかもしれないけれど
どれだけ親しくなろうと、俺には無い強さやそれ故の美しさを知る度に、その呼び方を定着させていったような気がする。
そもそも…
「僕は来碧さんを尊敬していますし、そこに性別は関係ないと思っていますので。」
俺はたまたまαに生まれただけであって、それは来碧さんも同じなのだ。
人の優劣をつけるのは性別ではない。
俺よりも約20歳くらいだろうか?
かなり歳上ではある筈の彼女が一向に言葉遣いを崩さないのは、そういったこの世の中の在り方を当たり前としているからかもしれない。
現に、俺の考えに簡単には賛同できないのだろう。
眉間には僅かに皺がより
小難しい表情で真っ白な天井を見上げている。
「…来碧が自らの意志で番ったと言ってきた時に
どっちなんだろうと思ったんです。」
消え入りそうな声色で
ぽつり、と彼女は呟いた。
静かに開く病室の扉と、二人分の足音に隠れてしまわぬよう
耳をそこだけに集中させる。
「あの子は私を見て育ってしまったから
……Ωは苦しむものだと諦めたのか、発情期に耐えきれなくなってしまったのか。」
腹部にかけられた布団が持ち上がる程に、大きく息を吸い
ゆっくりと取り込んだ空気を吐き出せば、彼女は今日見せてくれた中で一番の笑顔を浮かべ、膝上に置かれた俺の手の甲に、自身のそれを重ねた。
「でも、どちらも違ったみたいです。
来碧がちゃんと幸せを見つけられる子で、よかった。
…貴方みたいな、素敵な番に出会えてよかったです。」
幸せの定義とは一体なんだろう。
発情を安定させる事、生活に支障をきたさない事…きっと俺には考えつかないような事まで様々なんだ。
だが、一つだけ確信を持って言えるのは
この先何年何十年、ずっと笑顔を忘れずにいられる事。
「幸せにします…きっと。
もう来碧さんが独りで苦しまないように、僕の全てを尽くして彼を守ります。」
俺よりずっと、細くて小さな女性の手。
しっかりと握られたその力強さが
自身が壊れるまで、いや…壊れてもなお息子を大切に想う一人の母親としての気持ちを物語っているように感じられた。
どんなに苦しくても、辛くても
一人で頑張りすぎてしまう所は母親譲りなのだろう。
限界を超えてしまった彼女があの男性のような支えを見つけられたように
俺も来碧さんを囲う暗闇を照らし出す灯になりたい。
道に迷ったとき、次の一歩を踏み出せるような
前を向ける様な、そんな存在に。
会話に区切りがつき、ふと顔を上げれば
カーテンの向こうに見えた二つの影に気付く。
部屋に入ってきたことは音で気が付いたのに
すっかり忘れていた。
彼らもまた、二人で話をしてきたのだろう。
「…入っていいか?」
来碧さんの声色一つで心情を読めるようになった自分に思わず笑いが零れた。
俯き加減で戻ってきた彼の声は、普段より少しだけトーンが低い。
だからといって、機嫌が悪いわけでも元気がないわけでもなくて。
冷静でいようとすると、すぐにこうなるんだから。
嬉しいとか、恥ずかしいとか
もっと見せてくれてもいいのにな。
まあ、俺が気付いてあげられるのなら
それでいいか。
暫くは、親子の会話を中心に、たまに俺やお母様の恋人も参加したりして
時間が過ぎるのはあっという間だった。
男の人はもう少し病室に残るらしく、先に席を立ったのは俺達だ。
帰り際、来碧さんはお母様の手をきゅっと握って囁いた言葉に、お母様もまた柔らかな笑みを浮かべる。
“お母さん、ありがとう。
諦めないでくれて、本当に…。”
それぞれの道を歩み出す親子は
どんな宝石よりも輝いていた。
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