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サナギ
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あの瞳に吸い込まれそうになった。
たくさん走って苦しかった胸は、衛に触れられてまた苦しくなった。
掌を舐められた時なんて、背中がゾクゾクした。
今までに感じたことのないもので、それがどういう類いのものか分からなかった。
「でも、嫌じゃなかった……」
絆創膏を貼った上から掌の傷口に唇を寄せるが、あの時に感じたものを感じることはできなかった。
翌日、いつも通りに衛とお昼を一緒にしたが、恥ずかしい気持ちが込み上げでずっと落ち着かなかった。
それはほんの少し胸の痛みを伴っていた。
「何だろう。この感じ……」
この時の僕にはまだ分からなかった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
学校祭当日。
「この通り。お願い!」
僕はクラスの女子に囲まれて拝まれていた。
「いや、僕裏方だし。他の子にやって貰えないかーー」
「無理。大体、ウチらじゃ身長足りなくて裾踏んじゃうし、横のサイズも違うから」
僕はおおいに困った。
ヒロイン役の女子が所属する空手部の先輩が休んでしまったため、劇の時間帯までにその子が戻って来れなくなったからだ。
彼女のサイズに近い僕がそのドレスの調整に付き合ったから、着れるのは僕か、ヒロインの彼女より細い子に限られる。
残念ながら、そこに当てはまるのはやっぱり僕だけだった。
「で、でも、髪だって……」
「うっ……それはこれから考える。だから、サナギくん、この通りお願い!」
それでも僕は首を縦に振ることができず俯いてしまった。
「あ、いた。あーげはっ!」
教室の入り口から声をかけられ、ハッと顔を上げる。
そこには帽子を目深に被りサングラスを掛けた姉の瑠璃が「やっほー」と手を振っていた。
「え……姉さん⁉︎」
「サナギくんのお姉さんって……えっ、モデルのLuri⁉︎」
教室内は一気に色めきだった。
瑠璃は『モーセの十戒』のように、囲む人たちを片手をあげて僕までの道を開けさせた。
「ねぇ、揚羽、何揉めてるの?」
「えっ、あの……」
「あのっ、劇のヒロインの子が出れなくなって、その代役を身長が近いサナっ、深山くんにお願いできないかってお願いしてたんです!」
答えられない僕の代わりに、女子が答えた。
正直、一番知られたくない相手に知られてしまった。
「ふーん。で、揚羽、どうするの?出るの?」
「え……、や、僕は……大体、髪も短いし……」
「だから、それはこれから考えるって」
「ロングのカツラならあるわよ。ほら」
「「えっ?」」
瑠璃は僕たちの目の前で帽子ごと頭を持ち上げた。
持ち上げた手には帽子と長い髪の毛だけがあり、その下の瑠璃の髪はショートカットだった。
「今度、舞台に出ることが決まって、役に合わせて切ったんだ。あ、まだ内緒ね」
瑠璃は口の前に人差し指を立ててウィンクをした。
「「はい!」」
僕を囲んでいた女子たちは嬉しそうに元気に頷いた。
「じゃあ、あとは私に任せてもらってもいい?最高のお姫様にするから」
「「はいっ。お願いしますっ‼︎」」
女子たちが元気に返事をして、僕の背中を押した。
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