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サナギーいつか…
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あの男にキスをされたことを衛は気付いていた。
いつから?
僕を見つけた時には既に気付いていたの……?
一瞬で真っ白になった頭の中は、思い出したくない記憶が塗りつぶしていった。
だから「上書きしたい」と言う衛の真意が分からなくて、それは衛の自己満足にしか思えなかった。
それはあの男と同じことで……。
ショックだった。
僕の気持ちは?
僕の、衛への想いはどこに持っていけば……?
そう思った。
衛の言葉を聞くまでは。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
真っ直ぐ僕を見つめる目から目が離せなかった。
「揚羽が好きだ」
その瞳には僕だけが映っていた。
ほんの少し潤んだ瞳に、僕の体は自然に動いた。
1人分の空間を埋めるように衛の隣に。
見上げて、今にもこぼれ落ちそうな涙を指で掬う。
驚いたのか少しだけ大きく開いた目にクスリと笑ってしまう。
僕の中にはさっきまで抱えていたの不安はもうなかった。
「先輩。それはダメです。……僕だけ守るんじゃなく、先輩を取り巻く人たちみんな守って……先輩のお父さんが願った【衛】になってください」
「あげ、は……?」
衛は僕に出会って少しずつ変わっていってたんだ。
そして、僕も……。
「僕も変わります。【サナギ】ではなく、【アゲハ】ってみんなに呼んでもらえるような自分に……。だから……」
僕は前髪をかき分けて衛の目を見つめる。
「だから……誓い合いましょう。上書きなんかじゃなくて……お互い、いつかなりたい自分になるための誓いを……」
「揚羽……?」
僕は大きく深呼吸をして、もう一度、衛の目を見る。
「僕も……僕も先輩が好きです。……だから、変わるなら、あなたと一緒に変わりたい」
「……揚羽……」
「僕と、誓い合ってくれますか…?」
「ああ……」
衛はクシャリと笑った。
その笑顔に釣られて、僕も笑った。
「誓うよ……揚羽」
そう言った衛の唇が優しく僕の唇を塞いだ。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
教室の入り口で何度目かの深呼吸をする。
ここに来るまでに、いろんな人の視線が刺さった。
自分で決めたこととはいえ、やっぱり怖い。
「大丈夫だよ」
背中を優しく叩かれる。
見上げると優しい眼差しと合った。
「僕……変じゃないですか?」
落ち着かなくて前髪を触ろうとするけど、その手は掴まれた。
「大丈夫だ。揚羽の目は大きくて綺麗だ。……それに揚羽に何かあったら、俺が守るよ」
「はい」
昨日、目を隠すほど長い前髪を切った。
自分の顔と周りがよく見えるように、短く。
まだ少し怖くて震える。
でも、今僕を支えてくれる手は温かく僕を守ってくれる。
「さあ、行ってこい」
背中を押されて一歩踏み出す。
もう一度、大きく息を吸って、ガラッと扉を開ける。
「おはよう」
大きな声を出す。
数秒後。
「「おはよう」」
たくさんの声が僕を迎えた。
そして、たくさんの笑顔に僕も笑った。
fin
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