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【2020/05 潜伏】⑨
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新村くんとは特別仲が良かったわけではないが、臆さない性格でおれにも気軽に話しかけてきてくれていた。緒方先生にある意味近いかもしれない、サッカーやってたらしいし。
緒方先生のおかげで新村くんが入ってきた頃にはいろいろ耐性がついていたし、おれのほうが年がいってるので自然と深い付き合いにならずそれなりの態度で接してたけど、それ以前とか同じくらいの年だったら絶対避けてたな。
話しながら、手にしたスマートフォンを見ていると、噂をすればなんとやらじゃないけどいいタイミングで緒方先生からメッセージが来た。
「小林さんに聞いているかとは思うが、うちをやめた新村が先に現地入りして連絡してきたので一応知った者同士チームでやってみてほしい。」
今まさに聞いた話だ。しかしそれにリプライする形で不穏なメッセージが追加で入ってきた。
「もう合流してるだろうから理由は追って話すが小林さんとは密に接触させないでほしい。小林さんを一人にしないで伴って行動するように。」
まあ確かに、うちにいた頃も文系私大の運動系サークルの皮被った飲みサーとかヤリモクサークルにいる学部生みたいな悪ノリしてる感はあった。実際遊びすぎて剖検や実験や検証に遅刻したり来なかったりして注意されてるのも見た。
正直、あんまりちゃんと出すものも出してないし、出されたもの見ても全然で、よくあんなんで院に来れたなと思ったし、何のためにこの分野に来たのかわかんないというか、まだ遊びたいから学校残ってるんじゃないかと思ってた。
でも、修士の途中で法歯学に進みたいと言い出して、結局編入して出ていったのでそもそもやりたいことがちょっと違ったのかなと思ったし、おれが意地の悪い気持ちで見すぎてたんだなと思ってた。
幸い今、新村くんは助手席を陣取っていて、おれのスマートフォンを覗き見ることは出来ない。でも念の為、横にいるのに小林さんに緒方先生のメッセージを転送する。
「小林さん、スマホ」
「え?」
小林さんは腿を触り、スクラブのパンツについている深めのポケットからスマートフォンを出して確認した。
「これの理由ってなんか聞いてる?」
「知らないです、なんですかね」
作業に入る前にできれば聞いておきたい。緒方先生に返信する。
「今同じ車で移動中です。新村は助手席なんで遣り取り見えないはずです。理由ってなんですか?聞いておきたいです。」
「おはよう。あいつが出ていったのは単なる希望進路の変更じゃない。あいつの親が内々で示談にしてもみ消したが不祥事があった。当時の上も知ってる。やった事自体は性犯罪だから再犯の危険がある。」
「サークル絡みですか」
「そう。そもそも元々真面目じゃなかったから、おれはもううちでは博士行かせないし面倒は見ないって言った。そしたらこれまでの履修内容から編入しやすいからって法歯学やれるとこに編入して出ていった。」
ああ、なるほどね。内容をそのまま順次小林さんに送ると、小林さんはおれの方を不安げに見た。
「そういうことらしい、ほんとにおれの傍離れたらダメなやつだ」
緒方先生から続けて、メッセージが来る。不安だったら取りやめておれだけ残って小林さんは戻っていいという。これも転送した。
「どうする?」
おれはまたすぐ横にいるのに小林さんにメッセージを送る。
「とりあえず、今日一日作業してみて考えます。今日の何処かで不自然な視線や雰囲気を感じたら明日朝帰るようにします。」
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