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いつもやったら避けるんに、アルコールの力ってやっぱあなどれん。
やたら気ぃつよなるんは何でやろな。
チャリから降りた俺の足は危うかった。
一瞬ふらついて、右足を前に出した瞬間。
「なんさらすんじゃ」
地面に置いてあった缶を倒してもうた。
まじか。
しくった…。
「すんません」
「開けたばっかやねん。銭置いてけや」
まぁこれは当然や。
倒した缶をみたら安いビールのラベル。
その値段を手に、相手にずいっと差し出した。
「足らん」
「は?」
「一万置いてけ。不愉快な気分にさした慰謝料じゃあほ」
これはな、ちゃうやろ。
理不尽やゆうねん。
無視して小銭を地面に置いた。
んなあほ金払えるか、ってか持ってへんし。
これって恐喝やんな。
警察呼んだる。
気付いたら裏へ連れてかれて胸倉掴まれてた。
殴りたかったら殴ったらえぇ。
アルコール入ってなくても、多分俺は殴られる方を選択したと思う。
こんな奴等の言いなりになんか絶対ならん。
なってたまるか。
ふわっとした視界。
見たら宙に浮く拳が目に映った。
あー殴られる、思った瞬間。
「勘弁してもらえます?」
「あ?なんじゃ、お前に関係ないやろ」
「つれなんすわ。すんません」
浮いた拳を握る手。
その後ろから聞こえた声。
目を見開いた瞼に乗って酔いも吹っ飛んだ。
「こいつが?お前のつれなん?」
「見逃したってくださいよ」
言葉遣いは低姿勢でも、態度はそうとちごた。
威圧するようなその眼に、目の前におった奴は舌を鳴らしつつも腕を降ろす。
腑に落ちんて顔したまま戻っていく姿を見送り、残されたその空気に俺は息を飲んだ。
「気ぃつけろや」
「…ご、めん」
「なん、買い出し?そういや週末か。また集まってんの?」
「…ん、」
千里の口許をじっと見つめる。
そっから零れて来る言葉は、俺に夢か現実かの区別がつけれんような錯乱を招いた。
普通に会話してる。
なんで?
やっぱり夢やったん?
祈った事、遅いけどちゃんと届いたん?
なんや幽霊でも見たような顔してる俺に、千里は大丈夫かって、そうゆうた。
「千里…」
「なん?」
「あ、俺…、なん、ほんまに、千里?」
「お前、前倒れた時頭打ったんか?」
「打ってへん、大丈夫…」
苦笑するその顔から目が離せんかった。
もとに戻ったような千里が信じられんかった。
やで夢や思てん。
また夢見てんねやって。
「はよ行け。テツら待ってんちゃうん」
「…行こ」
「なん?」
「千里も一緒に行こうや、待ってんねん、アイツらも…、やで、やで行こうや…っ」
手を伸ばして服を掴んだ。
届いたその距離に、夢やないて確信できた。
触れた。
千里に手ぇ届いた。
ちゃんと掴めてる。
俺、ちゃんと―
「あかんよ、ムリ」
「…何で?何であかんの?ちゃんと理由あんねやろ?言いたなかったらえぇん、黙っといてもかまへん!」
「サスケ…、ごめんな」
「いやじゃ…っ、謝るとかせんでっ!したら来たらえぇん、戻って来たらえぇ…っ!」
いやや。
行かんで。
そっち行かんといて。
やっぱり何かあってんな。
せやろ?
やで今こうしてんちゃうの?
服を掴む手に力を一杯注いだ。
離さへんて、これ以上ないくらい掴んだ。
あいた手で涙拭きながら、その後両手で握り直した。
「もう行くわ」
分かってんねん。
ほんまは分かってんの。
俺が何ゆうてもあかんて事ぐらい、ちゃんと理解してる。
最後に千里は俺の髪に少しだけ触れた。
風呂入って生乾きやった俺の髪を撫でて。
見つめる俺に、困った顔を浮かべながら。
緩んだその手から離れてった。
(6)おわり
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