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テツはテレビから目ぇ離さんまま、どうでもえぇみたいにそっから口を閉じた。
紹介されたマサやんは、想像してたんよりも普通で。
いかついゆうより、可愛らしい感じの子やった。
てか。
「なん?サスケ?」
「仲間や!マサやん俺と仲間やっ!!」
「は?」
のっけからかなり馴々しいな思たけど、俺はマサやんに抱き付いてもうてた。
ここでちょっと。
テツ、174。
ケイ、176。
千里、179。
俺、…165。
分かるかこの屈辱的な身長の差。
つれを見上げて話さなあかん日常、泣けるでほんまに。
やでな、嬉しかってん。
マサやんが俺と同じ目線で。
俺とマサやんは一気に仲ようなった。
お互い仲間意識が芽生えた瞬間やった。
まぁ飲めよと、お泊まりまですすめてまう始末。
二人でなんやかんやと話してたら、ビデオに飽きたらしいテツがやっとこっちへ顔を向けた。
「マサやんて、なんじゃお前か」
「あっ!哲男!!」
「哲男ゆうなゆうとるやんけ。なん、お前暴ヤンなったん」
「先輩の誘い断れんかってん。怖いから」
「あほや」
「あほゆうな」
「お前ら知り合いなん?」
「つれのつれ、みたいなんで仲よかってん。昔」
「昔とかゆうなし。今も仲えぇやんけ」
輪の中へ入って来たテツを膨れっ面のマサルが睨む。
その顔はすねるガキみたいで、ちょっと面白かった。
なついてるんがようわかる。
「ほんで?何でマサルが千里知ってん」
「哲男は知らんかもやけど、俺な、千里と同じ施設におってん」
そうマサルがゆうた瞬間俺もテツもケイも、顔付きが変わった。
施設?
って…。
「俺は親の育児放棄。まぁ捨てられたようなもん。千里は、…ゆうてえぇんかな」
「教えて。誰にもゆわんから、絶対」
そうゆう問題やない分かってたけど、言葉を濁すマサルに苛立った。
だんまりになる空気の中、マサルの目ぇだけが床をあっちこっち這うて。
唇を指先でいじりながら、やっと重い口を開いた。
「千里が小一ん時、おかんが死んだらしいねん」
「らしいてなんじゃ」
「や、入って来たん俺より後やって、千里から直接聞いたわけちゃうねんな」
「で?」
「親父に殺されたって…。ほんで親父は捕まる前に自殺」
親戚も嫌がって、一人っ子やった千里は施設に預けられた。
そう続いたマサルの声は、俺の耳には届かんかった。
事故かなんかで親がおらんとか勝手に推測してた。
そんなどろどろした事件の被害者やなんて、少しも考えんかった。
胸が詰まる。
息苦しい。
千里…、会いたい。
会っていっぱい抱き締めてやりたい。
そんな衝動が、俺を揺さぶり続けた。
「俺は中学で親戚んち行く事んなったから学校はちごたけど、たまにおうて遊んだりしてた」
「千里は…、なんちゅうか、グレたりしてたん?」
「そらな、荒れてたで。アイツたまに病むねんやん。そん時はもう手ぇつけられん」
「病む…?」
「発作みたいにな、別人なってまう時がある。つれとか全部遠ざけて、姿くらましたりとかしょっちゅうやった」
思わずテツを見た。
したらテツも俺を見てて、こんで理由分かったんちゃうって、そんな顔しながら煙草に火ぃつけた。
病む、発作。
それは前触れもなく突然やマサルはゆうたけど、本人にはその引き金ゆうもんがちゃんとあるんちゃうかって。
俺は勝手にそう感じた。
「で?発作はおさまるん」
一番聞きたかった事を代わりにテツが聞く。
マサルは何回か頷いてから、
「俺の知る限りでは治ってたな。何もなかったみたいに、普通に戻ってきよる」
そうゆうた。
初めて気が緩む。
気持ちが少し軽くなる。
今回もまた、何もなかったみたいに戻ってくるやろか。
したらそん時は俺も普通に接したらえぇん。
また急にどっか行ってもうても、俺はずっと同じ場所で待つだけや。
心がやっと定まった。
俺はここにおったらえぇん。
離れやんと、待っとったらえぇ。
「マサル、あんがと」
「役に立てた?」
「十分過ぎるくらい」
「千里、多分また病んでる思うから、待っとったって」
「ん、言われんでもそのつもり」
病む理由はもうえぇ。
そこまで千里の心ん中へ踏み込みたいとか、贅沢な事はゆわん。
助けになりたいとか、何様やゆうような偉そうな事もゆわん。
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