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③
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ただ俺やテツやケイが、アイツの帰る場所になれたら、そんでえぇん。
「飲もうや」
煙草を消したテツがゆう。
その一言で、千里の話に幕が降りた。
俺の知らんテツやケイの昔話をいっぱい聞いては笑いながら、その日は朝まで飲み明かした。
「次移動やって。かったる」
「先行っといて。俺トイレ行くし」
「はよ来いよ」
「あい」
月曜日。
3限目は英語やねんけど、なんやビデオを見るらしいから移動になった。
教科書だけ預けてトイレに向かう。
女みたいに連れションとか待ってもらうん嫌いやったから、二人を先に行かせて俺も後を追った。
歩きながら考える。
酒盛りが終わったその日の朝に、テツがゆうた言葉。
―病んだ理由。サスケのあの言葉ちゃうん―
起きてたんやろか。
聞いてたんやろか。
俺が、キモイってゆうた事。
トイレで寝てしもたあの日、起きた千里は無言で部屋から出てったってテツはゆうた。
酔い過ぎて機嫌悪いんかなって思てたけど、ちごたんやなって。
やで、やでな。
もし俺のあの一言が原因なんやったら、誤解を解く意味も含めてゆわなあかんて思た。
ほんまは好きやねんて。
ごめんなって。
それを考え始めてから、矛盾したように俺は千里に会うんが怖なった。
会ったらゆわなあかん。
好きやって、言いたい。
そんな気持ちと、玉砕してまう恐怖とがごちゃまぜで。
まだまだ覚悟なんか決めれそうになかった。
もしかしたら違うかもしれん。
それが理由やないかもしれん。
逆にキモい思われて、もう二度と、戻ってこんくなったら…。
それが一番怖かった。
渡り廊下を横切って、階段に足を乗せる。
俯いたまま、前からきた気配に横へ移動した。
視界にはなんでか止まったまんまの足。
なんとなしに見て、顔を上げた途端、心臓がドクッと音をたてた。
なんでやの。
会いたてたまらんだ時はかすりもせんかったんに。
なんでこんな迷てる時に会うてまうん。
「あ…、おは、よ…」
「もうすぐ昼やで?」
「あ、うん…」
普通や。
助けてくれたあの夜の時と同じで普通や。
なんもなかったみたいに、笑てる。
千里が、俺を見てる。
「千里っ、あんなっ、あの、ちょっとだけ、えぇ?」
「なん?」
「こ、ここじゃムリ…!」
「なにテンパってんの」
「あかん?話し、してくれん…?」
「えぇよ。次サボる?」
「……うん」
あかん。
また倒れてまいそや。
どきどきする。
目眩がする。
千里の匂いに、全部もってかれてまいそうや。
しっかりせぇ自分。
逃したらあかん。
今日逃したら、もう言えんかも知れんねん。
背中を追いながら、黙って歩いた。
どこ行くんやろって、思てたら足が止まった。
遠くでチャイムの音が聞こえる。
ポケットで携帯が震え始める。
全部を無視して、静まり返る空間に、俺は一人腹をくくった。
(7)おわり
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