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画面を見た千里の表情が難くなるんを俺は見逃さんかった。
多分先輩や。
戻って来てからあんまりつるまんようなったなて安心しとったんに、やっぱりあかんの。
切れん?
「千里…」
「ごめん、行くわ」
「…行くて、どこ?」
「ちょっと」
電話を切った千里がそう言いながら立ち上がる。
その手を無意識に掴んで、下から伺い見た。
どこ行くん。
ちょっとてなんやの。
いやや。
行かんで。
「すぐ戻って来るし」
「ゆうて。どこ行くん」
「やでちょっと」
「ちょっとてなん?わからんし」
「浮気とか心配してんの?」
「ちゃうわ!また悪させんかなて心配してんっ」
「悪さ?」
「刺したゆうたやん…」
掴んだ手を離した。
触れて欲しない事やったんか、千里も黙ってしもて。
そうこうしてたらまた携帯が煩く鳴り出した。
「待っててや」
軽く髪を撫でられて、けどうつ向いたまま千里の顔よう見んくて。
パタン、と静かに響いたドアを合図に、俺はやっと顔を持ち上げた。
「あほ…。どこ行くんて聞いてるやん」
枕元にあるリラックマを手に取って眺める。
ほんまコイツ見てると癒されるし。
千里がくれたもんやから余計に。
時計を見たら七時で、暇潰しにでもとテレビをつけた。
がちゃがちゃ煩い音だけを耳に、頭ん中はやっぱり千里。
戻ってきてくれたんはほんまに嬉しいけど、けどたまに遠くに感じるんよ。
むちゃ近くにおるんに、全然遠く感じる。
目が合うても、俺を見てないような。
疎外感。
真ん中におるようで、ほんまはかすってもないんちゃうかって、不安になる。
隠し事をされるとキツイ。余計にそんな思いが膨れてまうから。
あほ。
千里のあほ。
リラックマを胸と太股で挟むようにして体育座りする。
飛び出た頭に顔を埋めて、落ち着かん気持に体を前後に揺さぶった。
帰ってこんかったら明日からシカトしたんねん。
もう口きいたらんねん。
触らしたらん。
イヤやったらはよ戻って来てや。
せっかく想いが解放されても、それをちゃんと受けてくれやな一緒や。
苦しい。
寂しい。
虚しい…。
閉じた目を開けたら違う番組に変わってた。
いつの間にか一時間経過。
千里はいつまで待っても戻って来んかった。
「サスケ、クマできてんで」
「ほんま。なん、寝不足?」
朝顔を見るなり二人にそんな事を言われて思わず目に手をやった。
そらな、一睡もしてへんからクマの一つくらい当たり前や。
もう許したらん。
絶対シカトや。
遅刻の常習犯やった千里が毎朝来るようなったんは最近の事。
けど今日は二時間目からの登校。
真横に立たれても俺は見向きもしたらんかった。
「サスケ」
「………」
「ごめんて。怒ってんの?」
「……………」
怒ってんの?
やと。
それって愚問やゆうやつちゃうの。
怒らんヤツがおったらそいつは神やね。
いや、仏か。
とにかくひたすら無視。
最初面白がってひやかしてたテツらもビビり出す程完全シカト。
流石に千里も抱きついたりできんらしく、ただ謝罪をあほみたいに繰り返してくる。
それも全部無視。
これで逆切れなんかしよったらほんま絶交じゃ。
しまいにチャイムが鳴り出して、諦めるかな思た千里にいきなり腕を引っ張られた。
「はよ仲直りせぇよ」
後ろ手にそんなテツの声が聞こえる。
どこいくんて聞く暇もない。
離せって振りほどける力でもない。
諦めるんは俺やった。
着いた場所はあの教室。
告った場所。
中へ押し込まれてドアが閉まった。
おまけに鍵まで。
カチリとした音に、立場が逆転したんをイヤでも感じた。
「ムシとかなんで?」
「千里が悪いんちゃうの。嘘つき」
「昨日はしゃーなかってん。謝っとるやん」
「連絡ぐらいせぇよ。俺寝んと待っててんで?」
そうゆうた瞬間千里の表情が一変する。
近寄られて、後ずさった。
「触んな…っ」
「ごめんて。ごめんなサスケ」
ぎゅうされて、息が詰まる。
誤魔化そうとしてんのがバレバレやった。
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