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③
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流れるその声は穏やかで、聞きながらもずっと千里を見つめてて。
初めて千里から、本人から語ってくれてるゆう事に、やっと、少しだけ不安が遠退く。
「高校も、行かなあかんゆうて周りの反対押し切って通わしてくれてん。おっちゃんは猛反対やったからな、今回の不祥事でアウト」
真相はこれ、ゆうて千里は笑た。
金はもう出さんゆわれたらしく、もともと学校に対して何の執着心もなかったから簡単に退学へ行き着いたって。
今度は困ったみたいな顔で薄く笑た。
一緒には住めんゆうて一人ここへ追いやられた事。
その家賃も出さんゆわれて行く場所がない事。
やで住み込みで働いてくしかないて、簡単にやけど今の現状を全部話してくれた。
「ウチ来たらえぇ」
「ん、気持ちだけもらっとく」
「ウチに住んだらえぇ。金やったらある。学校も辞めんでえぇ」
「何ゆうてんの?」
「俺の親もおらんようなもんや。金だけ毎月振り込んで、仕事仕事で帰ってこん」
「そうなん?」
「ウチ来てや、したらずっとおれる。なぁ、ウチ来て…?」
「気持ちは嬉しいけど、それは無理やろ?」
「何で?何があかん?」
「俺な、自立したいん。はよ自立して、自由になりたいねん」
働いて稼いで、その金で生活を賄う。
それができやな自立にはならん。
やで誰かの世話にはもうなりたない。
そうゆうて、千里は黙った。
自由になったらお前はどっか行ってまうん?
したらまた俺は、いつおらんようなるか分からん毎日過ごさなあかんの。
いやや。
そんなんいやや。
今でさえまだ全然遠い場所におるんに、更に遠なってまうやんか。
「俺は、どうしたらえぇ…?」
「おってくれたらえぇよ。ただ隣で、笑てくれてたらそんでえぇ」
「俺が笑う事って、お前に取って何の意味になるん…」
「そんなんは分からんでえぇんちゃうの」
笑う千里を見つめる。
そこでやっと、相手は動きを見せた。
立ち上がって、俺の真後ろまで歩いて、背中から腕を回される。
かなり久々に感じる抱擁。
振り返って、俺も存分に抱きついた。
「千里がおらん学校なんか行きたない」
「サスケが卒業したら一緒に住もや」
「ほんま?」
「迎えに行くわ」
「したらずっと一緒?隠し事もなし?」
「嫁に隠し事なんか出来んやろ」
「ヨメ…」
眉を寄せる俺に気付いたんか、腕に力が込められて。
「俺の嫁んなってや」
ゆうて優しくちゅうされた。
嫁って言い方が引っ掛かったけど、でも気持ちは緩み切ってあったかなって、ほんまに嬉しいゆう想いでいっぱいになった。
千里が初めて自分の口から自分を語ってくれた事。
まだまだきっと秘めてる事はようけあるんやと思う。
それでも今日みたいにいつか話してくれたらって、ただ俺は、それだけを願って再び降りて来る影にゆっくり瞼を下ろした。
(14)おわり
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