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「(何が……何が駄目だったんだろう)」
日を跨いで0時を過ぎた真夜中。
友樹は一人、バーのカウンターで頬をついてグラスの水滴を見ていた。
普段なら飲みもしない高いウイスキーをロックで頼んで。
ゆらゆら揺れる綺麗なブラウンにほろりと涙が溢れた。
すっかり客足も少なくなり、友樹だけが一人でお酒を見つめるだけで飲みもせず。
穂高はグラスを拭きながらそんな静かな客に笑った。
「お客様、もうすぐ閉店ですよ」
「……もうちょっと。ダメ?一人じゃ泣けない」
普通は一人だからこそ泣くものなんだけど。
友人である友樹はここの店の困った常連客。
穂高のシフトに合わせていつも来店していた。
そして、来店する時は大抵。
「……今日は何があった?」
「シオネとタカトに、怒られた……。というか、タカトには縁切られたかも」
「シオネとタカトって最近別れたって言ってたけど」
「うん……」
まさかな、と思う事はもう無い。
カップルの破局の原因はまたこの男だろう。
友樹はゆっくりゆっくり話し出す。
穂高は友樹の前で店を閉める準備をしながら静かに耳を傾けた。
経緯はこうだ。
タカトとシオネは友樹、穂高も同じ学部の友人でよく一緒に遊んだりしていた。
穂高は知っていた。シオネは恋愛経験豊富でよくフラフラしていたことを。
勉強や相談など、友樹を頼りにしていた事を。
友樹は親身に聞いていた。
大抵タカトについての恋愛相談なのだが自分の事のように考えて解決してくれようとする友樹は、恋に悩むシオネにとって心の拠り所だったのだろう。
『タカトと駄目になったら友くんでもいいかも』
そして伝書鳩扱いにされる友樹は当然タカトにも繋げる。
自宅に呼び、飲みながらタカトの不平不満をまた親身に聞いて。
"シオネに同じ事言ってあげなよ。今の言葉、僕だってグッときた"
他人との距離感がおかしい友樹はタカトの欲しい言葉を心の中で丁寧に丁寧に探る。
プライドを傷付けないように、けれど心の一番柔らかい部分に触れる友樹に、タカトも思ったのだろう。
『もしかして、友樹は俺の事を好き?』
一度意識したらあっという間だ。
シオネもタカトも、もはや友樹に会うために3人で遊ぶようになった。
シオネが友樹に擦り寄ればタカトが嫉妬して。
タカトが友樹と肩を組もうとするとシオネが友樹を引っ張るという地獄絵図だった。
当然、このカップルは破局する。
問題はその後で、シオネが友樹に対する全力なアピールに、惚れっぽい友樹はちょっとその気になってしまう。
けれどもタカトもタカトで毎晩毎晩友樹を部屋に呼び寄せ一緒の時間を過ごした。
我慢が利かず、とうとうタカトが友樹に手を出しかけたところで、ふと我に返ったのだろう。
『……俺が、ホモなわけがない。そんなはずがない』
タカトは突然、友樹との関係を切った。
酷い言葉を添えて。
そしてシオネからも言われる。
『こんなに私から行ってるのに、タカトばっかりだね。気持ち悪い』
友樹はこの日、二人の友だちを失った。
真っ直ぐに穂高のバイト先に向かった理由だった。
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