アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
旭と陽 2
-
陽は、じっと俺を見つめた後、びしぃっと人差し指で俺を指さした。それに慌てたのはもちろん旭だ。
「こらっ、人のこと指さしちゃだめだよ」
「先生! トマト! トマト!」
陽は旭の注意は聞き入れず、そのまま植木鉢に生えた植物とトマトの実を指さした。俺とトマトを交互に指さすのを見て、「これを見て」と言いたいのがわかる。あわあわする旭に「大丈夫」と笑って、俺は陽に話しかけた。
「それは陽が育てたのか?」
「うん……」
陽はまたじっとトマトの実を観察しだした。しかし、自分の世界に入りきっているわけではない。
「大きくて、綺麗だな。何色?」
「赤いの。きれいな、色」
「美味しいと思う?」
「……」
少し難しいかと思ったが、あえてそう質問してみた。思った通り、陽は困ったように旭のほうを向く。俺はそれを見て、陽はちゃんと「安心できる人」を見つけたのだとほっとした。そして旭も、陽にとっての「信頼できる大人」になれたのだと。
旭は陽と目線を合わせるようにしゃがんだ。そして、優しく声をかける。
「このトマトは美味しいかな? どうだろう。陽の気持ちを、冴島先生に教えてあげて」
陽は少しだけ困惑したように落ち着きが無くなったあと、ちらっと俺の方を向いた。
「おいしい……。あとで、取ったら、先生にもあげるね」
陽はそう言ってから、ふっと口角を上げて笑った。そして、恥ずかしい、と訴えるようにすぐに旭の胸に飛びついて、ぐりぐりと頭をおしつける。旭もまたくすぐったそうに笑っていたが、そこには陽の成長への喜びも感じられた。
17歳の男の子にしては小さい体、拙い言葉。しかし彼はここでちゃんと生きていて、嬉しさや幸せを感じることも出来ている。それは、陽の努力と、旭やその前の陽の担当職員や、多くの人が彼に向き合ったからでもある。そのことが、何よりも胸を暖かくさせた。
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
陽と旭が、にっこりと笑ってこちらを見る。ぶんぶんと頷く陽が可愛らしくて、俺はまた笑ってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 801