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テディベア 2
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たった一か月前のことなのに、まるで昨日のことのように思い出す。俺はひなどり棟の静かなプレイルームに、もう一度意識を戻した。ひなどり棟のプレイルームは、つばめ棟とは違って静かだ。大勢が集まって遊ぶこともない。基本的には職員と児童一対一で、ゆっくり遊ぶところなのだ。だから部屋もそんなに広くないし、おもちゃもあまり多くない。おもちゃの種類も、ぬいぐるみなどの柔らかいものばかりである。
俺はぬいぐるみが並べられた棚に近づいて、それらのぬいぐるみを眺めた。クマや、ウサギ、ネズミ、ライオン。様々な動物のぬいぐるみから、女の子や男の子の可愛いぬいぐるみもある。
少年のことを思い出して、選んだのは茶色のテディベアだった。首に赤いリボンを着けたテディベアはふわふわとしていて、口角もにっこり上がっている。これにしよう。
廊下に出て、正面に見える窓の外に世界に俺の瞳は動きを止めた。真っ青な空に浮かぶわたあめのような雲が、今日という日に宿る熱を伝える。施設に植えられた木々の先に見える「街」の、もっと向こうに、勇気君は今生きている。彼の「家族」と共に。
メルヘンが、心から笑って、幸せに生きられる社会になれば。
彼らを助けることができれば。
そう願ってこの仕事に就いた。そうして確かに俺は、メルヘンの幸せの手助けをし、彼らを保護する仕事に携わることができている。しかし、メルヘンと関われば関わるほど、メルヘンへの罪悪感や、この社会に対する苦悩が生まれることも知った。どうしたって、保護の手からすり抜けるメルヘンがいる。俺達が保護できる子供達はごくごく一部で、一般の家庭で奴隷とされているメルヘンを助けることは出来ない。彼らは何もしていないのに、リアルの都合で好きに扱われる。
勇気君の笑顔を思い出す。他の子供達の笑顔を、優しさを思い出す。多くのリアルが大人になるまでに忘れてしまう純粋さと素直さ、そして優しさを心に宿した多くのメルヘンが、あの少年のように、理不尽に虐げられ、心を傷つけられる。
助けたい。守りたい。少年の心に刻まれた深い傷を、癒したい。
俺は手に握ったテディベアを眺めた。
「君は、あの子を笑顔にしてくれる……?」
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