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テディベア 6
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「お疲れ様でーす」
事務室に軽い調子の声が響いた。入ってきたのは悠生だ。悠生はシャツの襟元を引っ張ったり戻したりして熱を逃がしながらこちらに近づいてきた。
「暑そうだな。外にでも行ってたのか?」
「あーはい。さっき春奈ちゃんに見つかって、外を走り回されてて」
「はは、あの子は悠生がお気に入りだもんな」
「もー、元気すぎて大変ですよ」
汗だくで大きなため息をつく悠生だったが、そこに苛立ちは見られない。それもすべて、彼らがここに来たばかりの時のことを知っているからだ。震え、怯え、世界のすべてに恐怖しているような子供達。彼らが大人を振り回すまでに成長できたことは喜ばしいことだ。そういう共通の感覚を、職員は持っている。
悠生はモニターを覗き込むと、「あ」と声をあげた。
「先輩、あの子にぬいぐるみあげたんですね」
「あぁ、プレイルームのだけどな」
「すごい控えめだけど、触れてますね」
少年はテディベアの腹を押すだけでなく、周りの毛を指先で引っ張っては離してと言うことも繰り返していた。持つ、抱きしめる、という行為には至っていないが、これだけで今日の少年の課題はクリアといえる。
「悠生のとこの子はどうだ?」
「雪君? 毎日泣かれっぱなしですよ。あぁ、今はぐっすり寝てますね。ご飯食べてお腹いっぱいになったのかな」
悠生はそのまま、「雪」という少年の部屋を眺め始めた。まだ彼から名前の提出は受けていないが、どうやらもう名前は決定しているらしい。
悠生の顔が、ふっと綻んだ。部屋の隅っこで丸まって眠る雪君の顔はカメラでは確認できないが、彼には雪君が穏やかなことがわかるのだろう。
俺はもう一度少年を見た。テディベアに触れていた少年は、もう手を引っ込めていつものように俯いて座っていた。
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