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幸月 2
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「春日さん」
「冴島さんっ。すみません、お願いします」
女性職員は眉を八の字に下げたまま、少年の手をゆっくり離した。その隙に逃げ出そうとする少年の体をしゃがんで受け止めて、俺は少年を抱きしめた。後ろで扉の締まる音がする。
「うううっ!!! うぅ!! あーう! うぁあああ!!」
少年は腕の中でもがいていた。意味をなさない叫び声には、怒りも、怯えも、どちらも感じられた。
「大丈夫、大丈夫だ……」
そう優しく声をかけるが、その音すべてが空気にのる前に、少年の叫び声によってかき消される。少年は体当たりするように右肩を俺の肩に勢いよくぶつけた。どこにそんな力があったのかというほどの衝撃で、少しぐらつく。少年は怒っている、そう捉えた直後、少年の体が小刻みに震え、嗚咽のようなものが聞こえた。少年は怯えている。
「落ち着いて、大丈夫だから……ね?」
少年の声をかき消すような落ち着かせ方は逆効果だ。だから、己の声が何度少年によってかき消されようとも、俺はささやくように、まるで夜の優しい静けさに溶けていくような声で少年を宥めた。
「あぁ、あぁああ。うあ……」
「どうした? 怖いことでもあった?」
「……うぅ、うー」
ふぅ、ふぅという呼吸音が狭い感覚で起こる。息を整えているのか、いつものように恐怖心が表面に出ているのかは判別できなかった。しかし、少し落ち着いたかもしれない。
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