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「べッ、別に言いにくかったらいいんだけどさ!!」
「…。」
少し考えてから、漆は顔を左右に振った。
「…いいえ。もう何年も前の話ですから。話せますよ。」
母は奔放な人でした、と漆は語りだす。小さな主は、訥々と自身の話をする執事を物珍しそうに見つめていた。
「一時期、このお屋敷に仕えていたこともあったんですが…。何というか。自分の夫が誰かに従う様子が気に入らなかったようで…ある日家のテーブルに粗方記入済みの離婚届を残して、どこかに消えてしまいました。」
「あ、その、悪ィ…。」
しょぼんと項垂れる紅貴に、若い執事はカラカラと笑ってみせた。
「…さっきも言いましたけど、随分昔の話ですから。気持ちはさっぱりしていますよ。」
でも、と紅貴は言いかけて、やめた。
漆は今、自分の両親が離婚する原因となった仕事を自ら選んでしているのだ。紅貴が意見していい話ではないような気がした。
「…もう時間も遅い。僕は紅貴の悩み事が聞きたかっただけですし、あなたはお部屋に帰りなさい。次期当主があまり長い間屋敷を留守にしては、誰かに勘づかれてしまうかもしれません。」
「…わかった。」
紅貴は素直に頷くと、木製の小屋を出ていった。小さな主の後ろ姿を小屋唯一の窓から見届けた漆は、直後膝から崩れ落ちる。
「…大丈夫。」
深く俯きながら、全身震わせながらも、漆は譫言のように呟きを繰り返す。
「紅貴はαだ。…大丈夫。」
執事の独り言は、闇に溶けて消えていく。
「…そもそも紅貴がαであれば、何も問題はないんだ。」
人々の恐れを知らず、時は淡々と無情に過行く。日めくりカレンダーはまた一枚、また一枚と捲られ、紅貴は小学校六年生になり、夏休み前に第一次性別検査を受けた。
結果は後日郵送だという。
夏休みに入り、主従はだだっ広い屋敷で過ごす時間が多くなった。紅貴は時折友人宅に遊びに行く。漆は、小さな主の面子を潰さないよう牧原と共に送り迎えだけ同行した。
紅貴の勉強机に積もっていく、進まない夏休みの宿題。書きかけの自由研究。読書感想文は、課題図書すら読んではいない。
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