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漆が部屋の扉を開けてくれる。両手で大事そうにショートケーキの小皿を持って、紅貴は一歩一歩、部屋へと入っていった。
燈の部屋の中は簡素だった。部屋は縦長い設計になっており、手前には来客用のテーブルと左右を挟み込むようにソファーが添えられている。奥には、執務用の燈の年代物のデスクがあった。燈はデスクの右側に立ち、両手に何かを持っていた。主人の傍に控えた漆の父親は、デスクの左側でただただ気配を殺していた。
無垢な子供はとたとたと父親に駆け寄り、両手に持ったショートケーキの皿を頭上に掲げた。
「…なぁ、親父、これ見て!!漆が今日、オレのために作ってくれたショートケーキ!!親父も気に入ると思うんだ。だから、後でもいいから食べてみ、て…。」
幼い次期当主は皆まで言い終えることが出来なかった。燈が無造作に右手を振り下ろし、息子の手を容赦なく叩いた。陶器の皿は宙を舞い、プラスチックのフォークとケーキだった残骸は真っ赤な絨毯の上に零れ落ちていく。
「…使用人と仲良しごっことは。気楽なものだな、紅貴っ!!」
怒鳴られて、紅貴の頭は真っ白になる。異変を察したのか。漆が親子の間に入る。従者であるはずの息子の行為に、漆の父親は激昂した。
「漆っ!!主人の前に出るなど、なんて無作法な…っ!!」
跪いた漆は決死の形相で、目の前に聳え立つ燈を睨みつける。
「さしでがましい真似をして大変申し訳ありません!!…ですが、恐れながら、旦那様!!紅貴様はまだ12歳。子供なのですよ!?無暗に怒鳴らないでいただきたい!!」
「漆ッ!!」
漆の父親の叫びに、燈はふっと顔を上げ首を左右に緩く振った。
「…叱らずともよい。執事は主人を助けるものだ。」
燈は漆を見下ろすと、目元をそっと和らげた。
「…お前は何も間違っていないよ、漆。」
漆は細かく震え、悔しそうに下唇を噛みしめる。
「…私がこんな役立たずを産ませたのが間違いだった。」
紅貴はまだ突っ立っていた。何が起こっているのか意味がわからない。優しかった父親が豹変した理由がわからない。…否、わかりたくもなかった。
「…紅貴。」
それでも、紅貴は何とかぎこちない動きで父親を見上げ、感情のない返事をした。
「はい…。」
恐怖で全身が戦慄いていた。…実際、紅貴は、頭のどこかで理解していたのかもしれない。…いつか、こんな日がくることを。
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