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「…東さん、ここは旦那様の書斎ではなく、紅貴様のお部屋です。旦那様のお部屋はそこからUターンして真っ直ぐ戻って廊下の突き当りを左です。わかりましたか??」
言葉遣いは丁寧ながら、口調は陰険さを極めている。長年一緒にいる主人からすれば、漆は一生懸命感情を押し殺して喋っているのがわかるが、東はたまったものではない。すぐさま姿勢を正し、回れ右をする。
「はい!!突き当りの廊下を右ですねッ!!失礼いたしましたぁぁぁ~っ!!」
扉が閉まり、ドタバタという忙しない足音が遠のいてから漆は怨念こもった声色で一言。
「左だっつってんだろうが…わかってんのか??」
普段は慎ましい執事の顔を剥ぎ取って吐き捨てる。苦笑しながら、紅貴は屋敷で働きだして間もない東のフォローに回ってやる。
「まあまあ。…東さんは手違いが多い人だけど、きっと根はいい人だよ。そう目くじらたててやるな。」
執事は紅貴に向き直ると、恥ずかしそうに片拳を口元に運んでいき、こほんと空咳を一つしてから話題を元に戻す。
「…あのドジっ子メイドが柔軟剤を間違えた可能性がある、というお話ですね。」
「そうそう。…あってもおかしくはないからさ。」
執事はメイドが消えた扉の方へと鋭い視線を向け、首肯を示した。
「そうですね。」
珍しく苦々しげな面持ちの執事に、主人は相手の横顔を眺めて、ややしてから小さく微笑む…。
それから、数日後。日めくりカレンダーは、八月十六日になった。谷ヶ崎紅貴、15歳の誕生日である。
朝、漆が主人の部屋の扉を叩くと、意外にも返答があった。どうぞ、という声に背を押され、執事は主の部屋に足を踏み入れる。
「…おはよう。」
紅貴は天蓋ベッドの上で胡坐をかきつつ、携帯を弄っている。…どうやら、少なくとも三十分は携帯と戯れていたらしい。漆は僅かに目を瞠った。
「…お早いお目覚めでしたね。」
「まあな。」
答えつつ、紅貴の目線はまだ携帯のディスプレイに集中したままだ。やれやれ、と肩を落としてから、漆は部屋のカーテンを全開にして回る。
「…本日のスケジュールを確認させていただきます。午前中は燈様の会社の見学。お昼も、燈様と会食で済ませるとのことでしたね。午後三時頃にお屋敷に到着。あとは…特に何の御用事も入っていませんね。」
そこまで聞いて、やっと紅貴は携帯の画面から顔を上げた。
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