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「…何言っているんだ。その後で、お前御手製のショートケーキを食べるんだろうが。オレは毎年、アレを楽しみにしているんだぞ。」
漆は小さく微笑んで、繰り返し頷いた。
「…ええ。そうでしたね。」
「用意しているんだろうな。」
「もちろんでございます。」
ゆっくり深く頭を下げていく執事に、紅貴は満足そうにニッと口角を引き上げた。
「…よろしい!!じゃっ、用意をするかな。」
「かしこまりました。」
窓から差し込む暖かな光を背景に、二人は顔を見合わせて、笑いあった。窓の外からは、自動車の走行音、鳥の囀り、まだ小さいながらも蝉の声が聞こえてくる…。
朝の支度を整えた後、谷ヶ崎家の次期当主は漆の運転する車に乗り、燈の待つ会社に向かった。
会社前で燈と複数の社員達に迎えられ、紅貴はそれから簡単な社内見学をした。広々としたロビー、清潔感のあるカウンター、喧噪と電話、ファックスの音が飛び交うオフィスでは無数の社員が忙しない足取りでデスクの群れを縫うように歩いていた。
人の行き交いが激しいオフィス、幾つもの会議室、休憩室、応接室…。六階の最上階、社長室の前に来た紅貴の足取りはすでに重くなりつつあった。
「…ここが私の社長室だ。」
燈が扉を開く。スチール製のデスクとふかふかそうな革張りの椅子。どうせ屋敷の当主部屋と変わらないだろうと踏んでいた紅貴は、奥のガラス張りの壁を見て声を失った。分厚くも透明なガラス向こうに広がる景色は、会社の六階から麓の街が一望出来る絶景だった。紅貴は感嘆の声をあげ、傍で控えていた執事が止めるのもかまわず、駆け寄って窓ガラスに手をついた。
「…何とかと煙は高いところが好き、か。」
燈の嫌味にムッとしたものの、それでも紅貴はわくわくする気持ちを抑えられずにいた。何せ紅貴は谷ヶ崎家次期当主なのだ。数年後、自分はこのミニチュアの街を毎日見下ろして過ごせるのかもしれないと思うと、自然と胸が高鳴った。
「…さて、社内見学はここら辺でいいだろう。次に行くぞ、馬鹿息子。」
言われた紅貴は上機嫌で革張りの椅子に腰かけてふんぞり返っていた。行くぞ、と声をかけられて戸惑う。
「…次??次って、親父と飯だろ。何をそんなに急ぐんだよ。」
燈は小さく肩を上下させ、ゆっくりと口を動かす。
「…お前には言っていなかったが、この後の会食に居合わせるのは私だけではない。」
瞳を鋭くして、燈は息子を見据えた。
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