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遠瀬院は薄紫色のパーティードレスに身を包んでいた。長財布を一つ中に入れたら、後は定員オーバーしそうな小ぶりなバック。アーモンド型のくりくりした黒目。右の瞳の斜め下にぽつっとある泣き黒子。ルージュを引いたような真っ赤な唇。顔は女優のように整い、もう少しで紅貴は『ドッキリ番組か??』と執事に訊いてしまうところだった。…レストランの調度品の影にカメラが隠れていやしないかとザッと辺りを見渡しは…した。
さらりと長いセミロングの黒髪を揺らして、遠瀬院は艶のある笑みを浮かべてみせる。
「…顔合わせと父から聞かされ、大変緊張しておりましたが、谷ヶ崎家の御子息様とそちらの執事の方は私と同年代のようで少し安心しました。」
遠瀬院が喋る度、麗しい髪が踊るように靡く。…不思議な雰囲気を持った令嬢だった。気品たっぷりではあるものの、人懐っこい雰囲気を併せ持ち、愛嬌がある。
直後。脇に待機していたはずの漆が横に並んだかと思うと、肘先でこつこつと主人の腕を小突きにくる。…何だよ、と少々ムッとしながらも、紅貴は紳士用のスマイルを顔に張りつけ、前の席を手で示す。
「…立ち話も何です。席につきませんか??」
紅貴は失礼にならない程度の間隔をあけ、令嬢の背に腕を回し、席へと導く。
「ああ、失礼。私、もうお腹がペコペコで。」
紅貴は微苦笑気味に言ってのける。時間帯は正午ぴったりである。遠瀬院も空腹を覚えていたらしく、僅かに首肯を示した。
全員が席に着いたのを見届けてから、紅貴は身を捩って後方を振り返る。…主人の背後で、漆は瞳を眇め心から安堵したような笑みを浮かべていた。
「・ ・ ・。」
わかったよ、と白旗を掲げ、紅貴は席にきちんと座りなおす。長年自分に仕えてくれた執事は、この場で紅貴がそつなく食事をこなすのが見たいらしい。
大変不本意ではあるが、漆との友情を捨てる選択は主人には出来なかった。誰にも聞こえないように小さく息をついて、食事の準備を始める…。
「づがれ゛だ…。」
レストランからの帰り道、二人っきりの車内で主人は運転手である漆に愚痴りだしていた。
レストランで、次の用件があったらしい遠瀬院と別れ、店の出入り口で会社へと帰って仕事に戻らねばならない燈を見送った次期当主はボロボロだった。
「営業スマイルは顔面の筋肉引き攣るわ、今時の女の子が食いつく話題血眼で探すわ、親父の手前気まずくならないよう緊張するわ…。」
「お疲れ様です。…よく頑張りましたね。」
朗らかな声で応じる運転手は、バックミラー越しに優しい視線を投じてくる。ドキリとした紅貴は、途端に口ごもりだす。
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