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「ああ、源さんに会いたいんですね。源さんは院内の…。」
病院の中にいるのだから、漆には今すぐでも会える。紅貴がほっと息を漏らしかけた、矢先。
「…“α”の病棟にいますね。」
静かに、紅貴の息が止まった。
「…αの病棟??漆は、“β”ですよ…??」
紅貴は最初、何かの手違いだと思った。だって、執事は紅貴と同じβだと自分から言っていたのだから。
紅貴はαの家系に生まれてしまったβでも、ずっと傍にいてくれた執事と同じ第三の性であったからこそ、今まで生きてこれたのだ。
看護師は、不服そうに唇を尖らせてから『まあ知り合いだし、いっか。』と呟いて、胸に抱いていたバインダーに挟まっている書類を何枚か捲ってから、その一枚を紅貴の眼前に翳した。
…そこにあったのは簡単な問診票だった。名前のところに長年自分に仕えてくれた執事の文字で『源漆』とあり、『第三の性』の欄に見間違えようもない、『α』と記入されていた。
紅貴は目を剥くと、看護師からバインダーを掻っ攫った。
「な…っ、何ですかもう…。」
困惑している看護師を横目に、紅貴はバインダーを食い入るように見たが、書かれた文字は“α”、である。紅貴はバインダーを取り落とし、その場に座り込んで嗚咽を絞り出す。
『…そう、ですね。僕も、βです。』
『…漆、お前は確か、βだったよな。』
『はい。…私は、βですよ。』
あの会話で、今まで生きながらえてきた。
『…よかった。せめて、お前と同じ性別で。』
『…そもそも、αが何だっていうんだ。第三の性に胡坐かいて、何の努力もしないグズ共の集まりだろ。」
『…なあ、漆。お前とオレはβ同士だ。βの主人と執事で、偉そうなα共の面子をぶちのめしてやろうぜ!!』
『…αの女性を、我々βの心意気で楽しませてあげましょう。』
β同士の仲間だと思って、腹を割って話をしてきた。
「オレを裏切っていたのかよ、お前。」
がっくりと崩れ落ちた膝の上にぽつぽつと、降り始めの雨の如く、紅貴の涙が落ちては弾けて消えて行く。
「漆…ッ!!」
紅貴のか細い叫びは、やがて看護師の呼びかけにかき消されていった…。
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