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数時間後。病院の駐車場。病院を背に漆は黒いリムジンに乗ってやって来た牧原から白い小箱を受け取っていた。
鮮やかな夕焼けを背景にして頭に包帯を巻き、右手にギプスを嵌めた執事は痛々しかったが、それでも左手と右腕を上手く使って後生大事そうに小箱を抱える。
リムジンが颯爽と去っていく。車を見送った執事が病院側に振り向くと、視線の先にいたのはがらんどうの瞳をした主人だった。
「…紅貴様!!」
一瞬顔を輝かせた漆だったが、すぐに自分の置かれた立場を思い出したのか、スッと表情を消し、深々と頭を下げた。
「…今回の事故は、全て私の不注意が原因です。お怪我をさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」
紅貴は視線をそらそうとして…執事が胸に抱く小箱に気づいた。
「…お前、それ。」
主人が震える手で指さすと、漆はふっと笑って器用に箱を開けて中身を取り出した。利き手ではない左手で、ぷるぷると滑稽に不安定ながらもどうにか出した中身を紅貴の目の前に差し出す。
…小箱の中身は、白い小皿に乗った苺のショートケーキだった。
「楽しみにしていると紅貴様が仰せでしたので。看護師さんに無理を言って、駐車場まで外出していいと許可を出してもらいました。他にも、お屋敷の衣笠さんや牧原さんに手伝ってもらって…。」
紅貴の目頭がみるみる内に熱くなっていく。瞬きする度、瞳の際ギリギリまで溜めた涙が零れ落ちそうになる。
『…じゃあ、オレの誕生日はお前の手作りケーキを頼むかな。』
『やはりチョコですか??』
『いいや、オレはその…王道の苺のショートケーキがいいかな。』
『…来年の夏までに、とびきり美味しい苺のショートケーキが作れるよう、勉強しておきます。』
『…私からのプレゼントでございます。』
『ありがとう、漆。こんなに嬉しいことはないよ。』
苺のショートケーキは、誕生日に二人が契った“約束”だった。
「…っ!!」
紅貴は皿の上のショートケーキを鷲掴み、目の前に佇む執事にそのケーキを思い切りぶつけた。
ホイップクリームが辺りに飛び散り、包帯を巻いた漆の肩口と前髪にスポンジケーキの残骸がべったりと付着した。
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