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執事はそっと瞳を眇め、主人を見つめ返す。
「…お気に召しませんでしたか。」
落ち着き払った漆の声が、主人の神経に障った。
「お前が一番気に食わないんだよッ!!」
紅貴の咆哮に、執事の顔色が一変した。肩にぶち当たったケーキを拭いもせず、小首を傾げる。
「…どうなさいました、紅貴様。」
「どうしたか??…すっとぼける気か、この期に及んで!!」
「はあ…。」
呟く執事は、本当に戸惑っていた。下唇を嫌というほど噛みしめてから、紅貴は怒鳴りだす。
「どうして、第三の性を訊いた時、“自分もβだ”って嘘をついたかって訊いてんだよっ!!」
刹那。漆の顔面が強張る。金縛りにでもあったかのように棒立ちする執事に、主人は早口に捲し立てる。
「…同情したのか!?なぁ、そうだよな!?…じゃなきゃ、お前がオレにそんな嘘つくはずないもんな!!そらお笑いだよな。主従で、主人がβの癖に従者の自分はαだなんて、口が裂けても言えねぇよな。」
でもさ…、と紅貴が口にした直後だった。ツー…、と一筋の涙が紅貴の片頬を滑り落ちていく。
「紅貴さ…っ」
「もしとか例えばとかの話をしたところで、信じてくれないだろうけどさ。…オレは、お前がαだったとしても、素直に言ってくれたら許せていたかもしれねぇよ…っ!!」
「…っ」
眉を顰め、執事は主人に顔を背ける。紅貴は、泣きながらも喚くのをやめようとしない。
「なあ、楽しかったか!?オレがβ同士だってお前の肩を抱くように話をするのは…。オレがβの分際でαの悪口を言うの、一体どんな気持ちで訊いていたんだ??」
執事はただ、その場に佇むしかない。まるで、彫像のように一ミリも動きはしなかった。
「β同士の、オレとお前なら出来るって、お前言っていたよな。なあ、本当はどんな顔して言ってたんだ??」
「紅貴様、信じて下さい。ただ私は、あなたが…っ!!」
「言い訳は聞きたくないッ!!」
主人の一喝に、執事はたちまち黙り込む。ボロボロと涙を流しながら、紅貴は従者に問う。
「…お前、この先も信じろって言うんなら、もうオレに隠し事なんてないよな??」
「…。」
執事は喋らない。ただ苦しそうに、主人を見つめるのみだ。一切瞬きもせず、瞳を潤ませもせず、口を噤んだまま。
「…それが答えか。」
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