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主人は漆を睨みつける。今まで、二人で築き上げてきた信頼が、音を立てて壊れていく。代わりに、憎悪が執着が二人の縁に蛇の如く複雑に絡みつく。
「…源漆。お前は、まだオレに言えないことがあるのか!!主人であるこのオレを…信じきれないのか。」
主人の言葉に、従者は静かにその場に項垂れる。紅貴は泣き声を押し殺しながら、踵を返し病院へと帰っていく。
紅貴の影が見えなくなってから、執事は頬に頬に飛び散ったホイップクリームの雫を片手で掬い上げ、口元に運ぶ。鼻先でハッと笑い飛ばして、表情の読めない顔で一言呟いた。
「…甘すぎ。」
それから彼は、足元の影法師を見て、ふっと冷たく呟く。
「次の紅貴様の誕生日ケーキは、料理人さんに作ってもらうか外注にしましょうかね。」
オレンジの鮮やかな夕空は、今や端々から濃紺の夜の色に染まりつつあった。威勢のいいアブラゼミやツクツクボウシの声は抑え気味になり、自分が主役だとばかりにヒグラシの物悲しげな声が辺りに響き渡っていく…。
日めくりカレンダーはまだまだ捲れる。新年になる度にかえられ、印字される形やメーカーは違えど、月日を示すアイデンティティは一つも揺るぎはしないまま。
七月下旬。とある有名進学高校の屋上。一人の男子生徒が、ツインテールで茶髪の女子生徒に迫られていた。
「…今週の週刊誌、見たわよ!!」
女子生徒が男子生徒に突き付けた雑誌には、見開きいっぱいに『Y家長男、許嫁関係のE家令嬢と婚約秒読みか!?』と書かれている。
「許嫁が…決まった人がいるのに、何で私と付き合ったのよ!!私…私、もしかしてアンタに…っ」
言い淀む女子生徒に男子生徒…成長し、高校二年に進級した谷ヶ崎紅貴はこともなげに言う。
「そうだよ、お前とは遊びだよ。」
「…っ」
ブルブルと肩を震わせる女子生徒に対し、紅貴は悪びれる様子もなく言ってのける。
「お前、バッカじゃねぇの??よぉく考えても見ろよ。そこそこ家柄がいいだけのお前に、オレが本気で付き合っていると思ったのかよ??…ざぁ~んねん!!」
「酷い…っ!!」
女子生徒は両手で目元を覆い、苦しげに嗚咽を吐き出す。…その様子を見て、紅貴は心外そうに肩を竦めてみせた。
「おいおい、一時でもお前にいい夢見せてやったオレに対して、その態度は何だよ。」
紅貴はニヤニヤ笑いながら、女子生徒に近づき、強引に両腕を取り上げる。女子生徒の涙に濡れた頬が、引き攣った表情が、紅貴の前で露になる。
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