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片手をひらひらさせた後で、踵を返し、紅貴は車へと引き返していく。途中、困惑した表情の源漆とすれ違う際、ひねくれた主人は小声で執事に命じる。
「…源、所詮ガキだ。オレらがどういう人間かわかんねぇさ。それより、親が来たらケチをつけかねない。とっとと車を出せ。」
執事は、反論をぐっと我慢した表情で主人を睨みつける。
「…かしこまりました。」
震える声で、命令に服従した。…漆もまた、主人ほどではないが少しだけ背が伸びていた。華奢な体つきは相変わらずで、成長した顔つきは一層整っている。唯一、大きな変化があったといえば、髪型だろうか。肩までだった黒髪は麗しく伸び、腰までの長さになったものを頭の高い位置で一つに結んでいた。彼の頭が動く度に、しゃらりしゃらりと繊細な黒髪が靡いた。
車は高校の正門から離れた場所で、赤の信号機を前に動きを止める。ボケーッと車窓の外を眺める主人に、執事は声をかける。
「…紅貴様、最近お戯れが過ぎませんか。」
声は冷静さを保っているが、主人には手に取るようにわかる。…源漆は、昔のように牽制できない主人を精一杯警戒している。
「戯れぇ~??…何を言っているのか、わけわっかんねぇなぁ。」
「…私が知らないとでもお思いですか。」
漆が応じた途端、一気に車内の空気が緊張状態に陥る。空気を壊すように、主人はそれまで流していた足を組んだ。
「…ちょっとくらいいいじゃん、人間壊すぐらいさぁ。みんな痛みを知った方が強く生きられるって。」
それよりさ、と続けて、主人はバックミラー越しに漆を見据える。女の裸体を眺めるかの如く、下心に満ちた表情で野卑な瞳を眇める。
「…お前は、いつ壊れてくれるの、源。」
ポーカーフェイスを崩さず、執事は素早く切り返す。
「何を仰っているのか、よくわかりません。」
「わっかんねぇか、へぇ~…。」
さも楽しげに手を叩いて笑った後で、すっと真顔になって主人は執事に告げる。
「…お前は、主人を信頼してねぇ上に楽しませてもくれねぇんだな、源。」
執事は瞳を伏せたまま、黙り込む。
「お前さ、執事としても人としてもつっまんねぇ~んだよ!!」
イライラしたのか、主人は執事が座る運転席を蹴る。振動に揺れながら、それでも漆は落ち着き払った相貌を崩さない。
緩慢な動きで、ハンドル側に上半身を倒し、謝罪を繰り返す。
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