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「…お待ち下さい、紅貴様。本当に…、本当に遠瀬院様を傷つけないとお約束を…っあ!!」
珍しく短く叫んだ執事を妙に思って、紅貴が振り返ると…そこには、無様に床へと倒れ込んだ相手の姿があった。主人は茫然と立ち尽くすが、漆は辛そうに眉を寄せると頭へと両手を運んでいく。
…2年前の事故で漆は頭に傷を負った。まさか、と思い、紅貴は執事に駆け寄る。2年前、二人の信頼関係は完全に崩壊した。だが、長年共にいた執事が苦しんでいるのを見殺しには出来ない。
「…源??おい、源!!」
薄い肩に手を置くと、華奢な執事の身体がひくんっと小さく跳ねた。呼吸が…荒い。過呼吸気味になっている。服越しに触れた体温も熱すぎる。顔を覗き込むと、とろんとした双眸に目を奪われる。まるで…ヒートでも訪れたかのような。
「…問題、ありません…っ!!」
ほのかに両頬を赤く色づかせて、漆は途切れ途切れに言い張る。
紅貴が助けようと抱き起すと、執事は簡単に上半身を持ち上げられた。おかしい、と紅貴は驚きに目を瞠る。漆だって成人男性である。普段ならば、それなりの重みがあり、抵抗があるはずなのに、綿の如く軽い。力が入らないのか。やや遅れて、鼻先にやや強めに香る、石鹸とミルクと蜂蜜の匂い。
「問題ないって…どう見てもおかしいだろ、お前!!」
潤った瞳を眇めて、頭を左右に振る。
「…最近、ずっと体調が悪くて…。」
「ちゃんと薬は飲んでいるんだよな??病院には行ったのか。」
「ええ。薬の服用はきちんとしております。…ですが、病院には仕事にかまけ過ぎて、つい行けていません。」
紅貴は重々しく溜息をついてから、相手の肩を抱く。手のひらから伝わる反応で、相手の全身の筋肉が強張ったのがわかった。…弱っている今、ひねくれ者の主人に身体を預けるのは幾分か不安があるのかもしれない。
「…とにかく、お前の部屋に運ぶぞ。肩を貸せ。」
耳元でなるべく静かに囁く。…本当ならば、優しく言い聞かせたいところだったが、紅貴はすでに柔らかい言い方など忘れてしまっていた。
大切に扱ってやろうとしているのに、漆は強情だった。ふるふると首を左右に振って、主人が使用人用の自室へと送り届けるのを断固として拒む。
「…もう、少しすれば、治りますから…っ」
何度言っても聞こうとしない。仕舞いには紅貴も面倒になって、そうかよ、とぞんざいに言い返してしまう。
「…そんなにオレの力を借りたくないか。まあ、いい。好きにしろ。」
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