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午前十一時。時間通り会食が始まった。初回の顔合わせを含めると、五回目の会食とあって、主人と執事、数名の護衛のみでの食事となった。
ナイフとフォークを器用に使い、前菜を堪能していく遠瀬院は相変わらず優雅で麗しい。対面の席で料理に舌鼓を打つ谷ヶ崎家次期当主はやはり場を弁えているのだろう。遠瀬院に無礼な発言などはせず、率先して声をかけユーモアたっぷりのお喋りで彼女を笑顔にした。
遠瀬院家の執事は、黒岩といった。短い黒髪を刈り上げ、ちょっぴり強面なため、なかなかワイルドな雰囲気を醸しつつあるものの、機敏な動きやそつのない仕事ぶりは漆も認めるものがあった。
双方の執事は、主人の背に立ち、必要な時に世話をしながら相対していた。周りには、数名の黒服黒サングラスの護衛。慣れていない者にとっては、緊張感を強いられる食事だろう。
次の紅貴の誕生日、八月十六日には両家の婚約が正式に契られる。約束の日取りが近いからか。漆達執事やボディーガード達はどこか殺気だっており、二人の周りには神経質な空気が流れている。
話も弾んできた頃合い…二十分くらいしたところで、紅貴が婚約者に新しい話題を提供する。
「…紗千香様、失礼でしたら申し訳ありません。ですが、近い内に行われる私との婚約を了承したのか、ぜひ理由を御聞きしたいと思いまして。」
紗千香はテリーヌにナイフを入れたところで、手をとめ、ナプキンで口元を拭ってから流暢に喋りだす。
「…あら。私はお父様がこの話を持ってきた時から乗り気でしてよ。」
アーモンドの瞳をくるくる回しながら、無垢な少女のように振る舞う遠瀬院は猫のように気ままであると同時に極めて理知的な女性に見えた。
「乗り気、ですか。」
ふむ、と紅貴はゆっくり頷く。
「…私としては、しっくりきませんね。女性の側からすれば、交際…しかもこんな結婚に繋がるものは通常なら渋るものではないのでしょうか。それを乗り気、と答えるとは興味深いですね。」
一口水を飲み干してから、グラスを卓上に戻し、一筋縄ではいかなそうな令嬢は答える。
「…だってね、紅貴様。そもそも私は遠瀬院家の一人娘なんですもの。それは大切に育て上げられました。箱入り娘と揶揄されても何も言い返せないほどに、です。」
でもね、とやや身を乗り出して遠瀬院は唇の前で両手を合わせて続ける。
「私、ずっと自分がふがいなくって仕方なかったわ。大事に育てられ、与えられるばっかりで私は今まで誰にも何にも返せていないの。」
だからこのお話に乗り気でしたわ、と遠瀬院は上品に微笑む。
「こう言っては、紅貴様は気分を害されるかもしれませんが、私がαだったおかげで縁談が決まり、遠瀬院家の繁栄が約束されるんですもの。私、αに生まれて本当に良かった。おかしな話、私の身一つで遠瀬院家を守ることができますのよ。光栄な話ですわ。」
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