アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
42
-
「…もちろんですとも!!」
十分後。遠瀬院家の車を見送った後の駐車場。車に向かう道すがら、紅貴はぐちぐちと呟く。
「…何であんなこと言っちゃうんだ、オレは…。」
隣を歩いていた執事は、片拳を口元に添えてくすくすと笑いだす。
「…よい結果になったではありませんか。お次は紗千香様に満足していただけるデートプランを考えないといけませんね。」
お前なぁ…、と主人は隣の従者を睨みつける。
「他人事だと思って、実は楽しんでいるだろ。」
「…とんでもない。」
にこやかな顔を横に振ってから、執事は普段通りの真意が汲めないポーカーフェイスに戻る。
「紗千香様との御交際、そこから発展する御結婚は谷ヶ崎家ひいては紅貴様の偉大なる功績に繋がるでしょう。αを伴侶にしたあなたは、これまでとは比べ物にならないくらい多くの発言力を持つに違いありません。」
漆はそこまで早口に捲し立てると、今度は力強い眼差しで主人を凝視する。
「…流石の燈様も、αとの子供を儲ければβであるあなたをお認めになるかもしれません。」
心底びっくりした主人は、素っ頓狂な声を発する。
「αとの子供って…!!」
執事は不思議そうに紅貴を眺める。当然、といった調子で漆は口を動かす。
「…まさか、御結婚を上っ面のものと捉えていませんよね、紅貴様。名がある家の、それもαの一人娘を娶るのですよ??…責任を持ちませんと。」
紅貴は車の前で立ち止まり、パクパクと無為な口の開閉を繰り返す。…執事は、一切面白がらず、怪訝そうな面持ちでそんな主人を見つめていた。
いや、お前はそりゃ谷ヶ崎の家が栄えれば文句はないんだろうけど、そうじゃないんだ。オレが結婚して子持ちになる点について何か感想はないのかと問いただしたいんだよ。…と、言いたいが、『何もございませんが』と答えられると弱いので、そこまで踏み込んで訊けない小心者の主人だった。
「…何か問題がございますでしょうか??」
問題だらけだ、と答えたいのをぐっと我慢して、紅貴は後部席のドアを自分で開きにかかる。…本来は漆の仕事だが、二人きりの時は主人のしたいようにさせてもらっている。
「…別に。」
ぶっきらぼうに答えると、執事は丁寧に一礼してから、運転席の方へとぱたぱたと駆けていく。後ろ姿を見送って、主人はロックが解除された音を聞いてから後部席を大きく開き、席に乗り込むとやや乱暴に扉を閉めた。シートに腰かけ、シートベルトをかけると足と腕を組み、目を閉じる。…後は、車が発進するのを待つだけだ。…が、車はいつまで経っても動き出さず、エンジン音すらしない。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 120