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「あ、ああ…。内容ですね。ええっと…。」
言いかけた執事のお腹から、低いぐぅ~という呻きが漏れた。ははっと弾けるように笑う主人に対し、漆は多少居心地悪そうに続けた。
「…こっ、こういった軽食では私は満足できません。そういえば、近くに料理人さんから聞いた御紅茶が美味しいお店があると聞きました。そちらで、ランチを口直ししましょう。」
「そっか。…じゃあ、このハンバーガーはオレが食うわ。」
「え??」
執事が顔を上げる頃には、主人はとっくの昔にテーブルにあったトレイの上からハンバーガーを掻っ攫っている。
「…紅貴様、そのようなものをいただくのはあまり…。」
「オレは小さい頃から、『出されたものは残すな』と習った。」
減らず口を叩く紅貴に、執事はむむむ、と眦を吊り上げる。…が、よほどハンバーガーの存在が漆の美学を汚すと見える。代わりに私がいただきます、とは言いださなかった。
「こんな美味しいのに。」
もぐもぐと口を動かしつつ、紅貴はふっと瞳を眇める。…事実上、間接キスだし。
主人の胸中を知ってか知らずか。目の前の漆は腕を組むと、ふんとそっぽを向いた。
漆が屋敷の料理人から聞いた店は、デパートの奥まったところにあるレストランだった。店員が丁寧に接客してくれるサービス精神旺盛なところで、店内の清掃も行き届いている。が、普段遠瀬院と食事している場所に(ほど遠いものの)どこか似ていて、途端に紅貴は落ち着きをなくし、そわそわしだす。
小さな円卓に白いテーブルクロス。日の当たるテラスから差し込む光。全体的に明るい店内。人入りも疎らで、シックな雰囲気が漂っている。
出てきた受け皿を持ち、紅茶の注がれた純白のカップを傾けて、漆は満足そうに息をつく。恍惚とした表情に、対席にいた主人は一瞬にして目を奪われた。
漆のふっと緩んだ目元には、いつもの強張りが雪解けの如く消え去っていた。紅茶で濡れた唇は妖艶で、照明の下、てらてらと主人を誘うように光る。緩んだ瑞々しい頬はやや赤く色づき、子供のように無垢な彩をしていた。
美しい。どんな値打ちある絵画より彫刻より、紅貴の胸の中を酷くかき乱す。写真で残すには刹那的過ぎる上に、誰かに見られる心配があった。…まさに肉眼で映してこその、美。
口を半開きにして、執事に見惚れる主人だったが、相手に呼びかけられハッと我に返る。
「…紅貴様、私の話、聞いてました??」
前髪をかき上げ、紅貴は微苦笑する。
「わっ、悪い。ボーッとしていた。」
「…紅茶が美味しいですね、と感想を告げただけですから良いですが…。…くれぐれも紗千香様の前では、そんな上の空じゃいけませんからね??」
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