アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
56
-
「紅貴様、私からあまり離れないようついて来て下さい。」
周囲を警戒するように観察してから、一歩を踏み出す執事。執事の片腕を紅貴は…意を決して、手を伸ばす。二人の手が空中で繋がった。驚愕したらしく、刹那、執事の肩が大きく揺れる。
「紅貴様、あの、これは一体何の真似で…。」
「オレが迷子になると困るんだろう。」
いつの間にか身長を追い越してしまった年上の執事を、主人は緩々と見下ろす。
「…恥を忍んでやっているんだぞ。」
「そう、ですね…。」
漆は自分自身に言い聞かせるように口にする。
「しッ、仕方ありません、よね…??」
紅貴の大きな手を従者はきゅっと握り返す。
「おう…。」
握り返された、たったそれだけの反応なのに、紅貴の鼓動は早鐘を打っていた。普段なら鼻先で笑い飛ばしてしまえるような他愛ない事柄が、意識している者が相手だとこれほどまでに…重い衝撃を食らう。
二人は腕を繋いで、駐車場へと向かう。繋いだ手から、温もりがひしひしと伝わってくる。息が荒くなる。胸が…情動で溢れんばかりになる。呼吸の仕方すら…忘れてしまいそうになる。
駐車場なんて二度と到着しなければいい。紅貴は涙目になりながら考える。二人で永久にこの時から抜け出せなくなってしまえばいい。
漆は手を繋いでも依然前を歩いていた。少し早足に、でも紅貴の歩調に合わせて。細やかな心遣いが面映ゆい。
執事が前を歩いているものだから、紅貴が目にしているのはずっと漆の背中だけだった。白いブラウスに時折肩甲骨の皺が寄る。
いつからだろう、と紅貴は一人考える。いつから漆は隣に並んでくれなくなったのだろう。こんなにも遠くなってしまったのだろう。漆は、正面から自分を見せてはくれなくなった。…紅貴はずっと考えて、専属の執事相手に切り出せずにいる。
『…お前、この先も信じろって言うんなら、もうオレに隠し事なんてないよな??』
忘れもしない、15歳の誕生日。執事の裏切りを知ってからずっと心にしこりが出来ている。
『…源漆。お前は、まだオレに言えないことがあるのか!!主人であるこのオレを…信じきれないのか。』
なあ。
紅貴の視界にある白いブラウスが段々と霞んでいく。徐々に紅貴の双眸が潤んでいく。目頭が…灼熱を感じとる。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
56 / 120