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「…そういうのは、紗千香様になさるべきです。」
紅貴は、目の前が真っ暗になっていくような、錯覚を起こした…。
谷ヶ崎紅貴は、夢を見る。
毎晩、同じ夢だ。
紅貴の部屋。ワインレッドの絨毯の下には、大理石の床がある。天井から下がるのは、小ぶりなシャンデリアだ。家具は他に机、本棚、箪笥。…紅貴の目にかかったお気に入りの品々。
奥の天蓋ベッドに、青年…夢見る谷ヶ崎紅貴は眠っていた。
紅貴の寝ている天蓋ベッドの左手にはテラスに続く窓がある。閉じ切ったカーテンの隙間から差し込む細い月光がベッドの主の寝顔を映し出す。
だが、身体にかかっている布団は、少年が何度も寝返りをしたためか。腰までずり下がっていた。紅貴は頻りに寝返りをするようになったかと思えば、自分を抱くように腕を回し、背中を丸めて震えだす。
時期は八月第二週。続く熱帯夜。部屋の空調は効きすぎている。誰も紅貴に救いの手を出さない。…そのはずだった。
突然、窓付近からすっと片腕が伸びてくる。腕の持ち主は人型の影をしていて、燕尾服を着ているのがぼんやりとわかる。
人影はベッドの上の紅貴に手を伸ばすと、手厚く布団を彼の肩の高さまでかけなおした。
人影は一端身を引くと、今度は上半身を丸めて紅貴の顔を覗き込む。…表情を確認したかと思えば、人影は小さく唇を開く。
『 、 。』
人影は隙の無い足取りで部屋を後にする。廊下に出て、両開きの木製の扉を閉めながら、人影は喋りだす。
『 、 。』
次に目覚めた時、紅貴は不安定な心持ちになって、考えずにはいられない。
…ああ、悪夢だ、と。
「…紅貴様??」
執事に顔を覗き込まれ、彼に灰色のスーツを着せられていた紅貴の意識は浮上していく。
八月第二週。午前十時。曇り空。…今日は、紅貴と遠瀬院が出会う。つまり、デートの日だ。
…だというのに、紅貴の気持ちは散りがちだった。理由は、目の前でポーカーフェイスを崩さない執事のせいである。
『…そういうのは、紗千香様になさるべきです。』
フるったって、あんな言い方はないだろうに、と紅貴は緩々と目を細める。…否、漆にしてみればアレは一種のおふざけで、だからあんなつっけんどんな返しをしたのかもしれないが。…どちらにしても、紅貴にしてみれば大打撃だ。
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