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失恋(かどうか真相は謎のままだが)の衝撃で、紅貴は執事が唆すまま、遠瀬院と連絡を繰り返し、とうとうデートの日取りが本日と決められてしまった。
逃亡先もなければ逃げる意志もない。ただ、紅貴の気持ちは沈みきっていた。未だに自分の何がいけないんだろうとくよくよ悩んでしまう。
主従という関係か。それとも、紅貴の人柄だろうか。男同士だからか。…相手である漆が、αの血を持つからだろうか。
あてどなく考えていると、自然とぼんやりしてしまう。目の前の原因は、首を傾げて真剣に主人を案じている。
「本当にこのままで大丈夫でしょうか。…私も同行させていただきますが、いついかなる時も助け船を出せるわけではありませんよ??」
来なくていいのに、と紅貴は渋面を浮かべる。…好きな人に親の決めた相手とのデートを観察され、何なら助言までするといわれる状況をなんて呼べばいいんだ。紅貴は頭を抱えたくなる。
「わかっている。…そろそろ約束の時間だろ。」
銀の腕時計を一瞥してから、それまでの苦悩を感じさせない、すたすたと軽やかな足取りで紅貴は部屋の扉へと駆けていく。
「…ああ、そうだ。」
最後に一つ、と執事が穏やかな声色で言うので、何だと主人が振り返ると…紅貴が片思いしていた相手は茶目っ気たっぷりにウィンクしてから一言。
「…御似合いですよ、そのお召し物。」
「・ ・ ・。」
自然と、ものすごぉぉぉ~く珍妙な顔つきになる紅貴だった。…この世で一番、今日のスタイルを褒めてもらいたくないのはお前だよ。
遠瀬院とのデートはプラン通り着実に進んでいった。デパートで遠瀬院が好きだという雑貨屋を見て回り、二人で同じ車に乗り込み、昼食は付近の高級レストランへ。デパートへと帰ってきたら人気のカフェでお茶をしながらお喋りを楽しむ。
カフェを出て、そろそろお開きかと家の双方が考え出した矢先である。
紅貴がデート先に選んだデパートは、全部で三階の建物だ。Cに近い形をしており、中央が広場として抜けている。二階、三階も同様の造りをしている。
広場は盛んに催し物を開いているため、Cの建物の内側はほぼ全てテラスや階段になっている部分が多かった。すると、建物の一階と広場の境で頭上を仰ぐと、二階、三階のテラスが見える、といった具合になる。
二人の周囲は四六時中、遠瀬院家や谷ヶ崎家が雇った黒服のボディーガードが円形に隙なくかためていた。漆と黒岩…両家の執事達は数メートル後方で距離感を保ちつつ、見守っていた。
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