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紅貴と遠瀬院の二人がデパートを出ようとして差し掛かったのは、その階のテラスが折り重なっている場所だった。
遠瀬院がふっと立ち止まって、紅貴に向かい、声をかける。
「…今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったですわ。」
それから、丁寧な一礼をする。顔を上げた遠瀬院は、晴れ晴れとした表情をしていた。
「ああ、こちらこそ楽し…。」
彼女に合わせて足を止めた紅貴が皆まで言い終わる前だった。刹那、空気を裂くような叫びが聞こえた。
「危ないっ!!」
二人が茫然としていると、紅貴が専属の執事に押し倒され、男二人で抱き合うようにして数メートル転がった。紅貴が遠瀬院と繋いでいた手が離された代償として、ぷっつりと切れる。続いて、乾いた甲高い音。
我に返った紅貴は、真っ先に自分を抱えて上になっている執事の肩をどんどんと片拳で強く叩いた。
「馬鹿…っ!!オレより彼女を優先しろよ!!」
直後。…執事は普段よりも重低音で、主人の耳元にそっと囁く。
「…しかし、狙われていたのはあなたです。見間違えようがありません。あなたの頭上めがけて、上階からレンガが落ちてきたんですよ??」
流石の紅貴もゾッとして、顔から血の気が失せた。音がした方向を見ると、確かに重そうなレンガが紅貴の元居た場所に落下し、大部分が粉々に砕け散っている。数メートル後方には、ボディーガードの一人が屈みこみ、遠瀬院を片腕を掲げて、レンガに近づかないよう制している。
「…何が、どうなっている。」
紅貴の一言目は、状態が確認できないまま、ぼんやりと放った疑問文だった。しかし、段々と紅貴は理解していく。ざっと考えられるのは二通りだ。内輪にこの婚約をよく思っていない者がいる。それか情報が内部から漏れている。内通者がいて、そいつが外部の両家双方かどちらかに怨恨がある者と共に動いたか。
「何が…どうなっている…っ!!」
二言目は、確信だった。…どちらにしろ、谷ヶ崎か遠瀬院の手の者のどちらかに裏切者がいる。でなければ、場所は特定できないはず。紅貴は、十五歳の誕生日の苦々しい記憶が蘇る。
『どうして、第三の性を訊いた時、“自分もβだ”って嘘をついたかって訊いてんだよっ!!』
二年前の裏切者は、主人が危害を加えられるところだったというのに能面の如き表情で、まだ地面に転がったままの主人に片腕を差し出してみせた。
「…紅貴様、せっかくのお召し物が汚れてしまいます。」
「…わかっている。」
渋々執事の腕をとって、紅貴は立ち上がる。漆は主人を起こした後も甲斐甲斐しく、着ているスーツに広がった土埃を控えめな手つきで叩いて落とす。
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