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「車を放ってはおけません。現在はボディーガードの一人に見張っておくよう指示を出しておりますが、何を仕掛けられたかわかっていない今、野放しには出来ません。メンテナンスの方が来るまで待ち、対応する者が必要でしょう。」
「…車で屋敷に帰る間、誰がオレを守るんだよ。」
漆はニッと小さく微笑んで、主人の両肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「…牧原さんなら、安心でしょう??」
「…でも。」
紅貴は言いかけて、口を噤む。漆の行動が妙に感じられて仕方がなかった。まるで、紅貴から離れたがっているような…襲撃を口実に避けている気がした。
漆が手短な連絡で牧原を呼び、その車で一人屋敷に帰っている途中も、主人は心のモヤモヤが解消できずにいた。
婚約途中のデート。突然の襲撃。唖然としたあの一瞬。漆が言い張る車に何か仕掛けられたという言い分。主人を避けるような漆の動き…。
つい思い出してしまうのは、十五歳の誕生日。執事の裏切りが露呈した、あの瞬間。執事が見せた、苦しそうな表情。
『紅貴様、信じて下さい。ただ私は、あなたが…っ!!』
『言い訳は聞きたくないッ!!』
紅貴が遮ってしまったあの言葉。…執事は、何を言おうとしていたのだろうか。
車窓に額を押し付け、流れゆく外の景色を見つめながら、紅貴は飽くことなく屋敷に到着するまでずっと執事のことを考えていた…。
午後九時。デートから数時間が経ち、夜が訪れた頃に執事は屋敷に帰って一段落したらしく、主人の部屋を訪ねた。
部屋のカーテンを閉め、天蓋ベッドの上で胡坐をかく主人の肩を揉みつつ、執事はそっと語りだす。紅貴の服装はスーツから、ブラウンのフード付きパーカーに黒いジーパン姿になっていた。
「…車のメンテナンスに来た方にお話を伺うと、どうやらブレーキが効きにくくなっていたようです。あのまま運転していたら、危うく事故を起こしかけたかもしれません。」
「なるほどな…。」
紅貴は返事をしつつ、携帯を弄っていたが、その声色はあまり芳しくない。
「…漆。お前、レンガが落ちてくる前、どこにいた??」
漆は記憶を遡っていたのかやや間を置いて、ぽつんと答える。
「紅貴様もわかっていたのではありませんか??あなた方とボディーガードの数メートル後方におりました。黒岩様とご一緒に…って、あ。」
「どうした??」
紅貴の声が淡々としているのに、執事は露ほども気づかない。
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