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「当主の看板を持たせる??子作りさせて世継ぎができればはいそれまで??」
獣は自分の足元に横たわる主人を嘲笑し、口を開く。
「…馬鹿にしないで下さい。あなたを孕ませるのは私なんです。ほら、こうやって…っ」
口づけようと獣が折り重なったタイミングを見計らい、主人は精一杯の蹴りを相手の腹に食らわせてやった。獣は天蓋ベッドの外へと布団の一部と共に転がり落ち、動かなくなる。…肩は規則正しく上下しているので、幸い呼吸はしているらしい。無傷なのを確認し、主人は言葉を吐き捨てる。
「…もういい。もううんざりだっ!!お前のその反吐が出るようなオレへの執着はよぉくわかった。オレ達が相容れないのも全部わかったよ。」
自室から出ようと紅貴が扉に手をかけた、直後だった。室内から、弱々しい声が響いた。
「…最後に、一つだけ。」
啜り泣きから零れるか弱い声に、思わず紅貴は足を止めた。
「…執事にとって、主人は消耗品ではなく唯一無二のものです。私にはあなたしかいないんです。…それだけは、決して忘れないで。」
「…約束はできない。」
言い捨て、主人は自室を後にする。
一人部屋に取り残された執事は、後生大事そうにベッドからずり落ちた布団を抱えて、幾度も頬ずりを繰り返す。
「…紅貴様。」
絶え間なく続く啜り泣きの中で嗚咽を絞り出す。
「お許し下さい、紅貴様…っ!!」
午後九時二十分過ぎ。屋敷のロビーに通りかかった牧原は、歩きながら急くように黒いロングコートを身に纏う紅貴を目撃して、絶句した。すぐさま傍に駆け寄り、話しかける。
「…あの、坊ちゃま。何故上着をお召しになっているんです??これからお出かけのご予定が??…というか、不躾ながらどうして漆君が近くにいないんですか??」
紅貴はぐんぐん早足になりながら、早口に捲し立てる。
「牧原、手短に命じるぞ。車を出せ。今から、遠瀬院家に行く。アポなしになるが、大事な要件だ。時間帯は考慮していられない。加えてこの後、親父に掛け合ってみて源をオレの専属の執事から外せないか相談する。いいな??」
「え…。ええっと、はい。」
一瞬茫然としていた牧原だったが、紅貴の面持ちに緊急性を感じ取ったのか。とにかく、首肯してみせた。
数十分後。牧原の運転する車は、遠瀬院家の敷地へと入っていった。白を基調とした美しい洋館に、紅貴は臆する様子一切なく踏み込んでいく。牧原を面倒事には巻き込めないので、車で待つよう命じた。
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