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「…失礼する。」
半ば強引に遠瀬院家に上がった紅貴だったが、やはり家の数メートル後に使用人達に押し留められた。問答を続けて揉めていると、室内の奥から声がした。
「…あら、紅貴様ではありませんか。」
瞬間。使用人がズラッと左右一列ずつに分かれ、頭を垂れる。最奥からやって来たのは…遠瀬院紗千香だった。やけに明るい声で、遠瀬院は紅貴へと駆け寄ってくる。
…彼女は白いワンピース姿で、手には腕から零れ落ちそうな真っ赤な薔薇の花束を持っている。遠瀬院は顔を輝かせ、紅貴のところにやって来た。
「ちょうど、御連絡しようと思っていたところでしたわ。…私宛に谷ヶ崎家から今回のデートが中断してしまったお礼にと、薔薇の花束を贈って下さいましたね。…なんて美しい花束でしょう。」
「…え??」
紅貴の全身が硬直する。…紅貴は、遠瀬院に花束など届けていない。誰がやったのか、考える前に紅貴の脳裏に過ぎるのは…従順な執事の面で今まで上手くやりこなしてきた獣の影。
「…紗千香様、失礼しますッ!!」
一声かけて、紅貴は遠瀬院の手から花束を奪い取り、包装ごと思いっきり床に叩きつける。遠瀬院も周囲の使用人達も悲鳴をあげる中、紅貴は無我夢中でその花束を繰り返し踏みにじって粉々にした。
「一体何をなさいますの!?」
遠瀬院の悲鳴に近い声に、紅貴は必死の形相で答えた。
「…私はこんな指示を出してはいません!!全部、私の執事が…っ、源が仕組んだことなのですっ!!」
紅貴は少々逡巡した後で…遠瀬院の前で深々と頭を垂れた。周りにいた使用人たちが俄かにどよめきだす。
「お願いしますっ!!源を信じないで下さいっ!!あいつは…あいつは一体何を考えているのか、私にはちっともわかりません。…ですから、あいつから無暗に物を受け取らないで下さい。紗千香様の身にもしものことがあるかもしれません。ですから…っ」
すっと遠瀬院は腕を伸ばし、相手の肩を掴んだ。はっとした紅貴が緩々と顔を上げると、そこには不思議そうな顔をしている遠瀬院がいた。
「…事情は今一つ理解できておりませんが、紅貴様は御自身に仕えている執事を信頼しておられないのですか??」
紅貴は重々しく頷く。まあ、と遠瀬院は眉を顰める。
「どうしてです??専属の執事と訊きました。一緒に育ってきたようなものではないのですか??」
「…そうです。でも、私は一時期からあいつを信じられなくなりました。あいつの方から、私を…オレを裏切ったんです。オレに嘘をついたんです。」
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